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44:不穏な旅立ちと別れ

サバトとグレイスはお互いの気持ちを高めあい、改めて向かうべき旅路へと向かっていく。

そして不穏な祝福が訪れる。

 グレイスは目を覚ましたものの、マリスはいまだに彼女と離れることはできないらしい。彼女と悪魔の関係は僕もよくわかっていないけど、彼女が自由になるためには天使をすべて倒して、あの悪魔と完全に分離しなければならない。


「グレイス、レイブン王国に五属聖が降臨してきてるみたいだ。ここで一気に殲滅しよう」


「五属聖が? ていうか、レイブン王国ってここを統治してる国の名前のこと?」


「そう。首都マトハルを城下町として、ソル町、カマル町の三つで成り立っているこの国のことさ。僕は少し先にマトハルに行ってきたんだけど、あそこではクオーツみたいに天使から天啓ギフトを受けた人間がいたから間違いなく天使が降りてきているはず」


彼女は少し困惑しているようだ、無理もない。こんなに理解のできない言葉を並べられても追いつけないだろう。いままでも混乱したこともあっただろう。それでも彼女は深く考えていた。一つ一つの言葉を噛み締めているようだった。


「とりあえず、向かうべきはそのマトハルっていう町なのね......。そこに行けば、他の天使に会う方法も分かるかもしれないわね。いってみる価値はあるわ」


「そうだね。また、一緒に行こう」


 僕は最大限笑って見せた。僕たちの旅がどれだけ辛くても、悲しいことが起きても笑っていられるように、今だけは作り出していくしかない。エルフたちはもう連れてはいけない。これからは僕たち二人だけの戦いになるだろう。横にいたキオナは僕たちの話を聞いて黙り続けていた。うつむいて理解を示そうとしてはいたが、彼は冷静に語り掛ける。


「お前たちは本当に世界が覆るとでも思っているのか? 相手は天使だぞ!? いままで、とんでもない目にあってばっかりなのにどうしてそこまですんだよ。今まで通り天使の言うままに生きればいいんじゃないか?」


「天使はいつしか人間を食らいつくしかねない。彼らの食料のために生かされるなんてごめんだ。それなら、自分で自分の信じたもののために生きていくしかないんだ」


「私は自分を変えるために戦う。マリスとの決別してこの世界で生きるために戦う。その障害となるものは倒すまでのことよ。たとえ、この国が敵になるとしても」


 グレイスも僕も感覚は違えど、今を変えたいのは同じだ。変わりたいと願うから、戦う決意ができる。グレイスから感じたことがようやくわかった。彼女の願いが僕を変えてくれたんだ。

彼女は強い。魔法が全然ダメと言われたのにも関わらず、それでもなんとか身につけて強くなったっていうのもあるけど、彼女の本当の強さはもっと別にあると思う。身体的な部分じゃない、どこか......。


「グレイス......。君というやつは本当に不可解だ。でも、なんだか君ならできるような気もする。ボクたちはこっちで町の復興を手伝う。君たちは君たちの旅を続ければいい......」


 グレイスはこれ以上、別れを伝えに行こうとしなかった。アリスくらいには別れを言うべきだともいったが、彼女の足はすでにマトハルへと向かおうとしていた。


「おねえちゃん!!」


 カマルの町を離れる寸前、アリスが駆け寄ってきた。きっと、何かを察知してここにやってきたんだろう。彼女は少しぐずりながらも笑顔で見送ってきたのだ。


「いってらっしゃい、グレイス!! 絶対、帰ってきてね!」


「ありがとう」


 そういって、彼女はアリスを抱きしめて頭を撫でてから背を向けた。彼女の背中はとても優しい雰囲気に包まれていた。カマルを抜ける間、獣人やハーピィが手を振っていた。きっと、彼女が世話になった人達なんだろう。彼女の人望がみんなを動かしている。そんな気がした。


 町を抜けて、山道を進んでいると霧が濃くなっていく。天はあまりこちらの旅路を受け入れてくれていないようだ。霧で2歩先くらいしか見えなくなっている。そんな中、前から歌声が聞こえてきた。


『くーろいはねがおっこちた♪ さばくにくろい はねおっこちて はなさいた♪ はなさいて みがなって からすがないた♪ からすは くろいはね おとしていった♪』


声がはっきり聞こえてくる。 子供が歌っているわらべ歌のような歌い方だった。だが、現れたのは行商人のような荷車を引きづったドワーフだった。ドワーフは蓄えたひげをなぞって僕たちに語り掛けた。


「旅のお方、なにか入り用はありませんかな。今なら、10銀カーツぽっちで売りますぜ」


荷車には剣や盾が並べられていた。こんな安っぽいのが10銀カーツだって? 高すぎやしないか?


「これって、安いの?」


「グレイス、これは僕たちからぼったくろうとしてるんだ。こんな剣なら普通100銅カーツでもいいくらいだよ」


「ホホ、お目が高い......。でも、こちらはどうですかな。異国からとりよせた、遠方から鉛を撃てる武器【ヘカテー】というのですが......」


この形状、ノマドが地獄で持っていたものと似ている......。グレイスもこの武器に見覚えがあるような顔つきで僕と見合わせた。


「これって......。 あの、他に売った人はいませんでしたか?」


「さあ......。多くの方に売っておりますので覚えておりません。ただ、以前に買った方はマトハルに向かっていきましたよ......」


 ノマドがあの町にいるのか? それならもっと好都合だ。城下町に行けばいろいろ分かってくるはずだ。グレイスと相槌を交わして、ドワーフにお礼を言って立ち去った。ドワーフは最後によくわからないことを言って去っていった。


「くろいはね いつつ……と交わりしとき とびらは開かれる。 墜ちた天は再び舞い戻る」


最後の方は聞き取れなかったが、あまりいい雰囲気の言葉ではないのは確かだ。

不思議なドワーフとの出会いは彼らを一層、城下町マトハルへと急がせた。

次回第五部、首都マトハル編始動!

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