43:眠る少女と悪魔
サバトはグレイスのためにマリスを探してここまで来た。
そして彼女は目覚める。
グレイスの元に戻ったものの、マリスとグレイスは当たり前だけど勝手にくっつかなかった。
「戻っただけじゃだめなのか?」
僕がキオナに語り掛けるとキオナは顎に手を当ててぽつりと話し始めた。
「うーん、これだけではどうにもならないらしい」
「じゃあ、どうすれば!?」
誰も答えは持ち合わせていない。マリスでさえもどうすればグレイスの体に戻れるか分かっていない。こうなったら分離させたノマド本人を探しにいくしかないのか?
「う、うう......」
突然、どこかから女性のうめき声が聞こえた。どうやら俺たちの心配は杞憂だったみたいだ。グレイスが意識を取り戻し始めたのだ。
「よ、よかった......グレイス、大丈夫?」
「あ? ああ......。もしかしてまだ俺はこの世界にとどまったままなのか?」
「な、なんなんだ? グレイス、本当に君なのか?」
彼女と初めに話したときは、少し男勝りな少女だと思っていた。でも、自分のことを『俺』っていっている。どうしてだ? もしかして初めの頃の印象と何か関わりが?
「そうか、ずっと何も言ってなかったもんな。俺はこことは違う世界から転生してきたんだ。その前世が男だったんだ。隠し通すつもりだったんだが、気が動転して前の話し方でしゃべってしまった」
転生? 別の世界? 男? 話がついて行けてない。悪い夢でも見ているようだ。目の前にいる銀髪の美少女は前の世界では男で、そこから死んでまたここで生まれてきたということらしいが、正直そんなこと聞いたことがない。人は死ねば、冥界や天界にいくと言われていたのにまた違うものがあるのか?
「そうなのか......。正直びっくりだしあまりまだ整理はできていないけど、グレイスが無事なら僕はうれしいよ。でも、マリスは離れたままだね」
『ああ、そのようだ。グレイス・アルマン、どうやって戻るんだ?』
「いや、俺に聞かれても......。そもそも、戻る必要あるのかよ?」
それに関しては確かに疑問だ。近くにさえいれば二人が共存できるなら、今のままで大丈夫だろう。それでも不具合があるなら前の形に戻るべきだろう。
「確かにそうだね。今の状況で二人が活動できるならそのままでいいとは思うけど、本当に大丈夫?」
グレイスの体のことを心配していると彼女は屈託のない笑顔で返してきてくれた。
「ああ、大丈夫だ。でも、このまま不便な体なのも嫌だ。完全に俺とマリスが離れれば御の字なんだけど」
彼女の体は悪魔に支配されていると言っても過言ではない。彼女が悪魔の呪いから自由になるために僕たちが信仰している天使をすべて倒す必要がある。僕たちが天使たちの恐怖から逃れた自由な世界になるためには天使をも倒せるちからを自分で見つけていかないといけない。自分たちの身は自分たち守る。そう決めたから彼女について行くんだ。
「そっか。君はホントに変わらないな」
「改めていうことになるけどサバト、俺と一緒に戦ってくれないか? 俺が自由になるために、そして」
「そして、僕らが自由になるため。だよね? むろんそのつもりだよ、君が何者だろうと変わらない。僕たちは自分の信じたもののために戦う。下手な信仰心はもう捨てたさ!」
僕はできるかぎりの笑顔でグレイスに手を差し伸べた。もう、迷いはない。こんな狭い世界で行きたくはないからこそ、彼女を信じて戦っていきたい。この命が尽きるまで......。
「『どんな人間だろうと変わらない』か。だったとしても、私はここで女性として生まれたなら私らしく生きたいな」
「生きれるさ。君ならなりたい自分になれる」
『そしてその幸せなときに私がお前を殺せばいいのだな? 楽しみにしているぞ、グレイス・アルマン』
彼女のような顔つきで不敵な笑みを浮かべるマリス。グレイスは少し困惑を見せていた。彼がマリスだということに驚きながらも渋々受け入れようとしている。少しでも彼女の負担が消えれば......。
だとしたら、あの悪魔ちょっと邪魔だな。
※次回当たりで4部完になると思います。




