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42:信じるものと疑うもの

グレイスのためにマリスをつれて帰ろうとするサバト。

共闘せよ、悪魔と一緒に。自分の信じたもののために

 修道女は、文字通り体を大きくして僕たちの前に立ちはだかる。ギフトというのはどうやら人間と天使の契約によって人から外れた力を手に入れられるようだ。


『これが、水天使ヘルメウス様からの天啓ギフト......。私はなんという果報者でしょう! 天使ルシエル様のためにあなた達には犠牲になってもらう!』


複数の翼を生やした修道女はこちらに一直線に向かってくる。彼女のただの突進が僕たちを吹っ飛ばすほどに重く、素早い。


「グハッ......!?」


ただの物理攻撃だけでここまでの力が......。グレイスはこんなやつと戦って勝ったっていうのか。銀級勇士の助けがあったとはいえ、こんなの天使と対峙しているのと同等じゃないか!


『ハハハ! 人間というのは本当にもろい。だから、無意味に抵抗しないでくださいよ?』


「それでも、ソルエル様との修行に比べれば!! どうとでもなる! エレメンタルエアロフルバースト!!」


槍を魔法と杖に見立てて風魔法で相手を突き飛ばす。今まで以上の風圧で自分も吹き飛んでしまいそうだ。後ろ側にも風を吹き起こす魔法を使って相殺しようとしても力の制御の効かないのが自然の魔法だ。あくまで自然は自然なんだと知らされる。それでも僕は彼女のためにここを乗り越える!


『無駄だと言っているでしょう! 天啓のない人間あなたが天使と同等の私にかなうわけがありません。おとなしく、天使様のための供物になりなさい!!』


供物か......。ソルエル様のところでもよく聞いていた言葉だ。ソルエル様は人間を食らうことで生きられる天使だ。だから命や力のために犠牲が必要だった。僕はそれを仕方のないことだと思っていた。それでも彼は、ソルエル様はそれを嫌っていた。だから必要最小限の死人を食べていた。だからだろうか、普通に天使が人間を貪り食っているのに抵抗感を覚えている。そして、この修道女の言葉に疑念を覚えているのは......。この気持ちは何なんだ!


『この世界の人間というのは、天使に食われたり悪魔に襲われたりと危険なことだらけだな』


マリスは弱弱しく語りながら僕の前に立っていた。彼の顔はいまだにグレイスの顔そっくりなのが腹立たしい。彼の言葉がグレイスと重なって聞こえてきて鬱陶しい。彼女といたときの安心感のようなものが流れてくる。


「ボーっと立ってるなら僕と一緒に戦ってくれよ。マリス」


『ほう、悪魔と手を組めるほど肝が据わってきたようだな。いいだろう、私のため全力を尽くすがいい。まずは、あの天使もどきを倒すぞ。私の力はほとんど使い物にならない。大きな力を出したとしても一回きりだ。しっかり誘導しろ』


天使がさらに近づいてくる。こんどは水をまとってさらにスピードをあげて向かってくる。あの勢いを殺すにはこちらも同じ水で対抗するしかない!!


「今だけはお前に使われてやる! エレメンタルハイドロドラグーン!!」


水が勢いをつけていき、やがてドラゴンのように暴れまわっていく。水魔法最大の力は修道女を飲み込んでいく。勢いが減退していっている。


『愚かな! 悪魔と手を組んで、道を踏み外してでも生きたいのか!』


「違う、僕は僕が信じたもののために戦っているだけだ!! ソルエル様もグレイスも僕が信じてきた人達は彼ら自身の信念のために戦っていた。だから、僕もあなた達と対抗してやる! マリス、今だ!」


僕が指示を出すと、マリスが拳だけを大きくさせて水の中にとどめておいた修道女を殴りつけた。一発だけ、その言葉通り修道女を捕らえて突き飛ばした後すぐに小さくなって消えていった。


『急いで脱出するぞ、あれでやられたとは思えん』


「そうだな」


手短に話して城下町を背に山を駆け上がる。エルフ村を通って洞窟を下ってグレイスのいるカマル町へと急ぐ。街に降りるとキオナが迎えに来てくれた。


「おお、連れてきたか。悪いが談笑している暇はない、グレイスの知り合いのところに預けてあるから一緒に行こう」


「わ、分かった。でももう少し説明してくれよ、キオナ」


『ぐっ......ああああ、なんだこの痛みはっ!』


突然マリスが頭を押さえて痛みを感じ始めていた。キオナはマリスの容姿には驚かなかったのに違和感があったけど、これでなんとなく分かった。


「グレイスと同じ反応を示している。やはり、彼女たちのつながりはとてつもなく深いところまであるようだ。とにかく、グレイスの容態があまりよくない。急ごう」


マリスに初めて触れた。消えそうな体なのに、しっかりと実体があるのが不思議だ。痛みで動けない彼を背中に乗せてグレイスの元に急いだ。



グレイスのもとに急いだものの彼女の目は覚めない。


それでもサバトは諦めなどしなかった。

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