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39:サバトとぬいぐるみの悪魔

サバトはグレイスのために旅に出ることにした。

 静かな街並み、これまで悪魔が列をなして占拠していたことが嘘かのように静かだ。エルフたちの移動が始まっているのが見える。街の人達は英雄の仲間を歓迎している。ある程度悪魔を取り払ったグレイスのことは英雄のように扱われているようだ。

 

 ただ、その英雄グレイスは意識がない。ノマドとかいう仮面の男にマリスと分離されてしまった。仕方なくマリスを捜すこととなったのはいいのだが、こいつがなぜついてくるのかがわからない。


「ついてくんなよ、悪魔のくせに」


『別にいいだろぉ? 仲間のよしみなんだからよぉ』


 僕の肩に乗る小さな布地のくまがペラペラとしゃべっている。彼はいつもグレイスのポシェットの中にいる悪魔の一人、ガラゴだ。こいつはいつも彼女の中で普段寝てるくせに大変になったときにしれっと現れる。


「誰が仲間だ! 大体お前たち悪魔が一緒に行動してること自体、異例なんだよ!」


そうだ、こいつがグレイスの近くにいること自体おかしい。僕は続けてガラゴに問い詰める。


「お前がいてもマリスが見つかるわけでもないだろ......」


街の復興をエルフと街の人達が行っている中、ただ行く当てもなく人の流れが戻りつつあるカマルの街をぶらぶらと歩く。さすがの遠出になりそうなので馬を借りて手綱を引いて行く。馬の頭に乗ってリーダーぶるガラゴは寝転びながら答える。


『そんなことはねえよ? 俺様は鼻がきくんだ、あいつの匂いくらいわかる。俺様がついてきて正解だろ? さっさといこうぜ』


布地のくまは小さな手をあっちやこっちと言い張って悪魔のいる先を示していく。天使に仕える勇士たちはこのあたりにはいないからやっぱりこの街は捨てられたといっておかしくはないだろう。


「どこまで行くんだ? 本当にこっちであってるんだろうな?」


『うるせえな、こっちで瘴気が漂ってんだよ!』


馬に乗られてガラゴの案内に従っていたら、地獄の入り口だった井戸さえも越えていた。街を出て山を越えると大きな土地が現れる。レイブン王国の城下町だ。金色の紋章を掲げた勇士たちが街を周回して回っている。


「ここって、城下町......。金級勇士多いのに瘴気が漂ってるだなんておかしいだろ」


『ああ? 漂ってるもんは漂ってんだよ! 特にあの教会、気味悪いんだよぉ』


「おいおいおい、あそこは金級勇士の中でもエリートの修道女ヒーラーがいるんだぞ?」


『んなもん知るかよ。いってみようぜ』


教会の中に入ると白い服を着た信者たちが天使の姿を彫りおこした像にひたすらに拝んでいる。

自分たちの街にも教会はあったがここまで熱心な人たちも厳かな建築もない。それゆえに信仰の薄い人間が自由に動けていたんだろう。


きょろきょろと見まわしていると、信者と同じように白い服に金色の十字紋章のついた女性が後ろから歩み寄って話しかけてきた。


「初めてですか? こういうところは......。ここは天使を崇拝する教会の中でも最も原始の天使をまつる場所ですよ」


「へ、へぇ......。地元にはそんなところあまりなくて驚きました。ところで少しお聞きしたいんですけど、この辺で怖い目にあったり変な怪物にであったりしたことなんてないですか?」


「最近物騒ですもんねえ......。それこそ、『悪魔』なんてものがでたら終末がやってきますからね」


「悪魔って言葉、別に言っていいんですね」


今まで出会ってきた人間は皆「悪魔」と口にしようとするだけでも怯えていたのに、ここにいる信者も修道女もその言葉に微動だにしなかった。怯えていると突然、示し合わせたようにそこにいる全員が張り付いたような笑顔でこちらに視線を向けている。それが特に気持ちが悪い。


「ええ、我々の教えとしては悪魔と天使は同質のものなので。そして世界を終末へと導くものこそ、始まりの魔天使、ルシエル様なのです」


彼女の顔は笑顔の中で狂気に満ちていた。到底普通に話をできる場じゃない。悪魔の瘴気ではない異様さがこの場を包んでいる。この空気に呑まれる前に外に出てもう少しこのあたりについて調べてみよう。


適当にあしらって外に出ようとした時、修道女と信者の視線をジトっと背後に感じていた。振り向くとやはり、笑顔を絶やさずに見送っている。あまり関わらなくて正解だった。さて、教会から出たもののこのあたりは全くわからない。


 というか僕の顔は知られていないのだろうか。驚くほどに大勢の住民は僕の顔を見ても全く見向きもしない。興味がないというわけでもなく、教会のときのようにこちらを見つめてはニコニコとしている。非常に気味の悪い場所だ。


「こいつら全員いかれてんじゃねえの?」


「悪魔のお前が言うか? とにかく、今日は歩きすぎた。ここらの宿に泊まろう」


「めっちゃいい宿屋にしようぜ」


「800銅カーツくらいしか持ち合わせてないぞ、こりゃ安宿決定だな」


安宿に入ると気味の悪いほどに明るい笑顔の受付が僕たちを迎えてくれた。


「旅のお方、お疲れでしょう。本日はお安くなって150銅カーツで部屋を提供しております」


「お、おう......。とはいえ、150か。割に合うか?」


「普段は800銅カーツですが本日はお安くなって150銅カーツで部屋を提供しております」



文言は違うが同じような抑揚と調子で話しかける受付に人間味を感じず、違和感を覚えたがここまで安くなることもないだろうと思い、今日はここに泊まることにした。視線を感じる。だがそれよりも、疲れがどっと押し寄せて瞼も重くなっていった。


だが、視線は寝静まる夜の間も続いていた。

この町は何かがおかしい。

天使も恐れるカルト教団「ルシエル教」とグレイス、そして悪魔マリスとの関係とは......。

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