4:ギルドと情報
少女はフェンリルの嗅覚に助けられようやく人気のいる街にでることができた。
悪魔のことについて知るために彼女は情報を売買しているギルドへと向かった。
ジョンに連れられ、森をかき分けると街灯のあかりが徐々に俺の顔を照らした。
やっと人のいそうなところに来た。久しぶりの人気と家に少し安心した。
いや、安心するのは少し早いか? 森からフェンリルを連れて歩いてるんだ。変な人間だと思われて絡まれる可能性だってある。でも、ジョンは多分私から離れることはできない。
それが契約魔法だからだ。......さっさと情報を手に入れて町から離れよう......。
情報を手にする場所といえば、ゲームの知識でいうとギルドと思うんだがどこにあるんだろう。
人慣れしていないジョンをなだめながら町を歩いてくと、いろいろな看板を見つけた。
宿、商店、武器屋、いかがわしそうな館......。どれも彩色豊かに町を飾り付けている。
すると、ギルド&バーと書かれた看板が見えた。
「ここだ」
扉を押して入ると、そこには屈強な腕と無精ひげの生えた男たちがむさくるしく酒を楽しんでいる。まだ、外は明るいっていうのにご機嫌な人たちだ。男たちは部外者の私が入るなり、少し静かになってこちらを一瞥してきた。
「えれえベッピンさんさんだな」
「かわいい嬢ちゃん、こんなところにいちゃあおじさんたべちゃうぞぉ?」
「あの娘が連れてるやつ、魂喰らいのフェンリルじゃないのか!?」
なめまわすような視線と声、ジョンを恐れるような態度をとる男たちの声を聞きながらギルド受付と書かれた場所に立つと、そこには肌が白く笑顔の優しいお姉さんがお辞儀をして挨拶を始めた。
「カマル町ギルドへようこそ! ご用件をお伺いします」
確か、カマル町というと俺の家からそう遠くない町のようだ。でも、どうやら自分のことはアルマン家の人間だと気づかれていないらしい。まあそれもそうか、家から出たことないもんな。
だから、自分が何者なのかだなんて誰も気にしてないんだろう。
ただ、ジョンのことは気になるようでしっぽを振る大きな生き物に受付嬢の顔はひきつっていく。さすがにデカすぎる犬なんて初めてだろうし、怖いのも無理ないか。
「ジョン、お座り」
ジョンが言うことを聞いて座りだすと、受付嬢の笑顔が戻り始めた。
笑顔が戻ったところで、俺は彼女にとりあえず悪魔のことについて情報がないか聞いてみた。
「この辺で悪魔に詳しい人はいませんか? そういう情報があれば売ってほしいんですけど」
「しょ、少々お待ちくださいね~」
急にオドオドとし始めた受付嬢はにらみつけるジョンに身震いした後、彼女の背後にある本を取り出してはパラパラとページをめくっている。
「おまたせしました。それ(・・)のことでしたら降魔郷のフロストですね。ギルドルールに従い、既定の品を納品していただければフロストの居場所についての本をお渡ししますがいかがでしょうか?」
彼女はあえて「悪魔」という言葉を口にしなかったように見えた。酒場で飲んでいた男たちもひっそりと酒瓶に口を当てていた。さっきまでのバカ騒ぎがウソみたいだ。
「わかりました。じゃあその納品するものを教えてくれますか?」
そういうと受付嬢が紙にメモを渡してきた。
【悪魔 ガラゴの捕獲】
そこにはガラゴという悪魔の生態と生息地域が詳しく書かれていた。
俺はそのメモをポシェットの中にしまい込んだ。
両親からもらった最初で最後の贈り物だ。両親にこれを没収されなかっただけましだった。
ありがとうございますと礼を言って店を出ようとすると、一人の酒狂いが口を滑らした。
「気を付けな、お嬢ちゃん。この辺はアルマンの娘の呪いがうろついてるって噂だぜ」
アルマン? それは俺の名前じゃないか。噂は流れているけど、それが誰かまでは興味はないみたいでよかった。私は少しとぼけて話を聞いてみる。
「なんですの? それ」
俺はがんばって女の子っぽく振舞った。酒狂いは顔をもっと赤らめさせて答える。
「魔法使いのレポロ、ジェーン・アルマン夫妻の娘が悪魔だって噂は多くのギルドで話題になってんだ。その悪魔のせいで高貴なアルマン家は潰れたらしいぜ。その亡霊がこの町に夜な夜な現れては魔法使いに呪いをかけまくっているらしい。ああ恐ろしい。お嬢ちゃんに天使の加護があらんことを祈るよ」
そういうと他の人たちもグラスをあげて祝福してくれた。それがその噂になっている悪魔の娘だと知らずに......。俺は顔を引きつらせて笑って彼らのまねごとをした。
「て、天使の加護があらんことを~」
店を出た後、少しいった先の宿屋に泊まることにした。お金はまだポシェットの中にギリギリ入っている。ジョンは外で寝てもらうことにした。さすがに獣はお断りだそうだ。
宿先のベッドに座ると、これまで体の中に抑え込んでいたマリスが急に現れだした。
『まったく皮肉なことだ。貴様に天使の加護なんてないのに......。それにしても、貴様の両親は死んだようだな』
「勝手に出てくんな......。 それに俺の両親が死んだとか、まだそう決まったわけじゃねえだろ! それにしても、俺が追い出されたとたん潰れるなんてどうなってるんだ?」
『一度家に戻るか? まあ戻ると言っても拒否するがな』
「行かないよ。まだなにも知らないのに、帰ってたまるか......」
『そんなに自分を森に置き去りにした両親が死んで嬉しいのか? 貴様』
彼の言葉にドキッとした。家族がひどい目にあってスカッとするわけがない。でも、父は俺を魔法も使えないとわかるとゴミを見るような目で見るようになったし、母親もウマの無残な姿を見て悪魔を見るように怯えていた。そこに愛情なんてものはなかった。でも、この世界で生んでくれた両親だ。
「黙れ、悪魔め」
『図星か。まあいい、明日に備え今日は休むとしよう』
俺は悪魔の声が入らないように、枕で耳を塞ぐようにして目をつぶった。
早く悪魔と離れたい。
でもこいつと離れるためにはこいつのことを知らないといけない。
たとえ、今が生きづらいとしても俺は絶対に死にはしない。死ぬのはこいつから自由になった時だ。俺は、決意を新たにガラゴのことが書いてあるメモを見つめ、彼の居場所である毒の沼地を想像しながら眠りについた。
ギルドの依頼を受けたグレイスは毒の沼地へと足を運んでいくのであった。
次回「ガラゴとフェンリル」