38.5:サバトの想い
次回以降サバト主軸で始めたいのでその導入です。
サバトはただ呼吸しかしない彼女を見つめて自分の師匠ともいえるソルエルとの約束を思い出していた。何度も呼びかけようと彼女は返事をしない。約束を果たさなかった自分をどう思うだろうと、考えながら心臓の音しか聞こえない彼女の顔を優しく触れる。
貴族の生まれでも何でもないサバトを初めに声を掛けたのはソルエルという世界をまとめ上げる天使だった。サバト自身の能力を買い、自身の親衛隊ともいえる銀級勇士にさせ、可愛がった。
これはグレイスとサバトが出会う前のころだった……。
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「ソルエル様、どうして僕のような人間をそばに置いてくれているのですか?」
「俺は能力のあるものが好きだ。人間の世襲や地位などどうでもいいと思っただけさ」
ソルエルは天使でありながら変わり者として知られていた。彼の街では人間の被害者は少なかったのだ。天使は人間を食わなければ生きることができないことも普通に教えてくれていた。
「この街に住む人間たちよ、恐れず聞いて欲しい。我々は人間を食べることでしか生きることができない。だからと言ってむやみに殺して食うことも家畜として肥やしたりもしない。自然のまま、死んだ人間を分け与えてくれたらいい。君たちの安全は保障しよう!」
彼の言葉は言葉通りには受け入れられなかったが町の人たちは自分が生きたいがゆえに死人をソルエルに分け与えていた。そうして町の平和は守られていた。
だが、隣町の天使が倒されたという一報で平和は一変した。
「サバト、最近賑わせている白銀のデーモンテイマーを知っているか?」
「人相までは出ていませんが、白獅子のように恐ろしいとか」
「それは少し楽しみだ」
ソルエルの言動はたまに理解できないものがあった。どこか自分の生まれを卑下しているような佇まいと姿勢が町の人たちの心を掴みつつあった。サバトもその一人だったこともいうまでもない。
そして彼女が現れた。
銀髪をなびかせて青く澄んだ瞳で男たちを魅了させる少女が不死鳥と狼をつれてやってきたのだ。あまりにも不釣り合いなモンスターにサバトは疑問が沸く。
銀髪の髪の毛がその白銀のデーモンテイマーと呼ばれたゆえんなのではないだろうか。人間の魂を食うと言われるフェンリルを従えているとなればなおさらのこと怖れられそうな人間だ。それでも、彼女の姿を見た瞬間、サバトは胸の高鳴りが抑えられなかった。彼にとって初めての異性だったのだ。
「サバト、しっかりしろ。あいつを使って海龍王をなんとかしてもらうぞ」
ソルエルは初めからデーモンテイマーを利用するつもりだったのだ。彼の抱えていた海龍王という邪悪なモンスターの討伐を任せてしまおうという策略はなんだかんだでうまくいった。だけど、ただでは返すつもりはなかった。
「サバト、彼女のことどう思う?」
「敵ながら強力なモンスターを従えていると思います」
「敵、ねえ。俺たちの敵はなんなんだ? 悪魔なのか? それとも別のなにか......。サバトよ......もし、私が彼女以外の何者かに殺されたら彼女を助けてやってくれ」
「なんですか、まるで自分が今から死ににいくような言葉じゃないですか」
ソルエルはサバトの言葉に返事をしなかった。彼はなにを見ていたのかはサバトにもわからない。だが、彼の言っていたことは辛くも当たってしまった。ソルエルはグレイスでもマリスでもない人物によって殺されたのだ。浜辺の奥の射線から一瞬の閃光。
サバトは顔が青くなった。自分をよくしてくれた親兄弟のように扱ってくれた恩人のあっけない死に呆然と立ち尽くす。グレイス自身も天使の情報を聞けず、悔しがる。彼女の姿を見てサバトは決心する。彼女とともにこの世界の敵を見つける旅が始まった。
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だが、今の彼の前にあるのは意識のないグレイス・アルマンだった。ほんの一瞬の出来事だった。監視塔のファムエル討伐から時間もたっていない。
「僕がもっと強ければ......」
悩むサバトにキオナが優しく語りかける。彼は容姿に似合わず、経験のある人物である。彼の声はエルフたちにも頼られる存在なのだ。
「君は悪くない、それにまだ彼女は息をしている。一刻も早く強制的に分離されたマリスを探さないと」
「マリスがいない? どうしてそれが」
「鎌が振り落とされた際に一瞬黒いものが見えた。少し彼女を調べさせてもらったが極端に体力と魔力が減っていた。きっとマリスが分離されてしまったことでこれまでの戦闘でのストレスや傷が一気に負荷となって体を蝕んだんだろう。早く見つけなければ」
「僕が捜しに行きます。キオナはオッカレ村の人達やアリスたちをお願いします」
そういったサバトは最低限の手荷物と槍を手にして旅立とうとした。
「そのあたりは別にかまわないが、一人で行くのか?」
「ここに残ってグレイスが戻ってきたときのための拠点づくりをする必要があるでしょ」
『じゃあ俺様が一緒に行くぜ! グレイスのためだ、行かせてくれよ!!』
ガラゴが小さな体で大きくジャンプしてアピールする。サバトは内心嫌で彼の言葉を無視した。一人で行こうと歩き出したが、ガラゴはなんとかそれについて行って彼の肩に乗る。虫のように追い払われるのをなんとかひっついて旅を始めるのであった。
第4部は異例?のサバト編です。
サバトがグレイスのために奮闘します。




