29:悪魔と一緒に地獄巡り
気が付くとマリスに守られる形になっていたグレイス。
地獄は長い。早く、サバトと合流しようと冷静に対処する。
『この子は悪魔に呪われていますじゃ!』
知らないおじさんが両親の前で慌てている。これは、ここに来た時の記憶?
『そんな!? あなた、どうすれば』
『魔法もろくに扱えない、悪魔に祝福された子供などアルマン家に必要ない!!』
父親は厳格で厳しかった。この世界でも、元の世界でも、結局は同じだった。生まれ変わってもなにも変わらない。
『来い!! お前はここにいてはならない!! 人間に害をなすものが家にいてもらっては困る!』
いやだ、いやだ。そう駄々をこねても父の力には勝てなかった。魔法使いという役職が悪魔と私を拒絶していた。私は、落ち着きを保っていたというより、自暴自棄だった。
『やっぱり、ここでもおれは必要ないのか』
どうして。こいつさえいなきゃ、こいつさえ......。両親には見えていない人外の髑髏を被った悪魔。彼は私を見ても憐れみもしない。嫌な夢だ。
『悪魔め、とうとう正体を現したな! いいか、おまえはここでせいぜい野垂れ死ねばいいんだ。それがこの世界のためだ!! 天使様、お許しください。これは世界のためなのです』
まって、待って、お父さん。お父さん
「待って!!」
飛び起きた瞬間、頭痛が走った。ここは? どこ......。暗い、洞窟の中?
『私がテントのようになっているだけだ』
声が響いてくる。マリスの声がすると、闇がどんどんと薄れていき、自分が川のほとりにある大木の下にいることに気づいた。マリスが、ここまで運んできたのかと少し疑問に思った。でも一番気になっているのはこの状況だ。
「どうなってんの?」
『あの滝から落ちて気絶していたところを助けてやった』
マリスが遠くを見つめていた。ふらつきながら立ち上がり、彼の見る方向を見上げると大きな滝があった。この崖の上にサバトが、あの大蛇がいる。気持ちの整理はまだ追いついていないけど、まずはマリスにお礼を言った。
「そう、なんだ。ありがと」
『フン。まだ貴様に死んでもらっては困る』
彼の言葉には裏表がない。利用価値があるから助けた。その一つの真実だけで私たちは支えあっている。支えあいという偽りの言葉で納得している。それでも今はこの状況をどうにかしないと......。びしょぬれになったポシェットから次元鏡とずぶ濡れのガラゴを取り出した。フェニックスを呼び出してサバトを見つけてもらうように頼んだ。
「フェニックス、サバトを見つけてきて」
私がそういうとフェニックスはしばらく見つめた後、空高く飛び上がった。さて、この後はこのぬいぐるみに頼るしかない。ガラゴの水でたぷんたぷんになった体を激しく絞るとガラゴが叫びだす。
『イテテテテテテテテ!!! また俺様、知らず知らずにピンチじゃねえか』
「いつもごめん。でも地獄で迷った今、あなたしか頼りがいないの」
『ったくよぉ、俺様がいないといつもそうだな。任せろ! ここは俺様の庭みたいなもんだからな』
そういってガラゴは私たちを案内してくれる。なんだかんだで彼は私たちの味方なんだと改めて感じた。
こう見ると悪魔って悪いモンスターなのだろうかと自問自答してしまう。悪いものってなんだろう。善いものってなんだろう。はっきりとしていそうで線引きの曖昧な世界。
「ほんとに悪魔って人に害をなす存在なのかな」
『我々は人に魅入られた稀有な存在だ。幻想をみるな、グレイス・アルマン』
『そうだぜ、グレイス。俺様達はもう悪魔というには人間に手を貸しすぎた。悪魔の世界にも地上の世界にもどの世界にも居場所がないんだ』
悲しそうな声色に同情していいものだろうか。それでも、二人は私に似てるとしかいいようがない。
居場所を探してさ迷い歩く、亡霊のようなもの。考えれば考えるほど彼らと似てる部分があって、そうであればあるほど、天使が異形で、恐ろしい怪物にしか見えない。
『グレイス、あれを見ろ!』
マリスが指をさした先にはこげ茶色の実のなった腰の高さくらいの小さな木々がなっていた。ヘグルナの特徴である丸々としたミカンのような形と独特のにおいが確信に変わった。
「ヘグルナの実!! これを採ってサバトと合流しましょ」
サバトと合流してしまえば一度エリエさんの元に帰れる。
実をもぎ取っているとガシッと誰かが腕を掴んできた。顔を見るとそこにはサバトがいた。でもその腕にはいつもの温かさがなく、冷たい。他人に握られている感覚。その感覚が私をゾッとさせた。
グレイスを掴む腕は誰なのか。
そこにいるのはサバトなのか?




