28:地獄への道のりと過程
地獄へと歩みだすグレイス。
そこに待ち受けるのは困難という名の自然。
「おはよう。いよいよ地獄巡り第一回だね」
「はい、でもちょっと心配です」
私はエリエさんに少し不安を漏らすとサバトがしっかりとした装備を持って現れた。
「大丈夫、今回は僕が君と一緒に行くことになったから」
エリエさんは今日の調査にはいかないらしい。なんでも、サバトの実力も知りたいからだそうだ。
「今日はまず、地獄でも一番浅い場所に生えているヘグルナという木の実を取ってきて欲しいの」
そういうとサバトがその名前に心当たりがあるようで彼はエリエさんに確かめた。
「毒消しに使うレアものですよね」
「さすがは銀級勇士様、博識ね」
地獄にあるものって使っていいのかなとも思ったけど、日本の伝承やファンタジーとは違うだろうし、そもそも地獄や天国のようなところと行き来できてる時点で不思議ファンタジーなんだよね。
この辺のファンタジーの知識はサバトに任せるとして、私たちは地獄の入り口の一つである井戸にロープを垂らした。
「準備はいい? サバト」
「ああ、もちろんだ。行こう、グレイス」
ロープを伝い下に行けば行くほど、どよめいた空気が鳥肌を誘う。
悪魔の瘴気はマリスの染みついた血の匂いや悲鳴を欲する瞳に似ている。そして、彼自身もそれを感じているようだ。
『ここは落ち着く空気だ。欲望と悲鳴と鼻をつんざく血の匂い。これこそが私の求めていた恐怖というものか、いや喜びというべきか』
「暴走なんかしたらただじゃおかないかんね」
『私も正直保証はできない。喜びのあまり貴重な貴様を殺しかねない』
「そのときのために僕がしっかり守ります!! 悪魔の好きには絶対にさせない」
サバトがふわふわと浮かぶマリスに睨みつけながら地上に降り立った。ようやく地面に足をつけれた。
サバトの持つ灯で狭い通路の壁に手を付けて歩く。通路から少し開けた場所が見えた。
「外?」
「まるでエルフの村にたどり着いた時みたいな感じだ。森もある、川もある。奇妙なのは空や地面それに木々の色くらいかな」
彼の言う通り、この場所はエルフの住む村のイメージ近い。ゲームの言葉でいうならば裏世界のような気持ち悪さがあった。地面は赤黒く、目のついたキノコや木、そして赤紫色の空。井戸の先にこんな異空間につながっているなんて聞いていない。これが、地獄......。
ヘグルナはこの森を抜けてた川の向こう側にあるらしいが、地獄の川というと嫌な予感しかしない。冥界の住人しか行くことの許されない賽の河原。そのイメージがよぎって身震いしたが、足に喝を入れて歩みを進めた。
「どんな怪物がいるのかわからない以上、警戒はおこたらないように」
サバトが私に注意してくれる。どんなものが出てきてもやるしかない。
「うん、分かってるわよ」
草むらがガサガサと動き回る。何かがいる。誰がが見ている。どこからか視線を感じる。
大きな影が私たちを覆う。歩みを止めた。後ろを振り向くとそこには大きな一つ目のヘビが舌をチョロチョロと出してにらみつけている。
「さ、サーペント!! まずい、こいつには魔法も剣も効かない! そっと、後ろ向きに歩いて行くんだ。音を出さずにゆっくり立ち去るんだ」
サバトの言いつけ通り、そろりそろりと後退りする。川までいって渡ってしまえば追ってこないはず。
きっとサバトもそれを狙っている。深呼吸をして後ろを見つつ歩いて行く。サーペントとはまだ目が合っている。少し近づいている気もするし、遠ざかっている気もする。早く、どこかへ行ってくれ!
パキッ
靴が木の枝を踏む感覚。それと同時に一気にそそり立つ鳥肌。ずるずるとこちらへと体を這いずって獲物を狙うヘビに私たちはなすすべもなく、走り出した。分け目なく、お互いを思いやる暇もなく、恐ろしいヘビの自分たちさえも飲み込むほどの大きな口に血の気が引いて行く。
「川だ! 向こう側に渡れさえすれば!!」
川には向こう側へ渡れるような橋はなく、なんとかすれば届きそうな飛び石があるだけだ。
サバトはそれをなんなく飛び越え、向こう岸へと渡って私に手を伸ばす。
「こっちにこればあいつは水が苦手だから追ってこない」
川の流れが強くなる。人を受け付けたくないかのように異物を排除しようとする。石が濡れていて足元が悪い。すべっt
「グレイス!!」
しまった、足が滑って川に落ちてしまった。川は私たちを引き離すように濁流へと変わる。そこに意志があるように川の先の滝へと意識を落とす。
気が付くとそこは知らない木陰だった。
捜索のために彼女はフェニックスを飛ばし、また二人だけの旅がはじまる。




