27:基礎訓練と地獄の瘴気
ロンドの妻で村一番のテイマーであるエリエと修行することになったグレイス。
そこに待ち構えるは地獄の入り口だ。
エリエさんから地獄にいくための特訓が始まった。
「ていうか、地獄ってなんなんですか?」
基礎の水魔法ハイドラを唱え続けながら聞いてみると彼女ははきはきと答えてくれた。
「地獄というのは冥界と地上をつなぐ道のことよ。天界にも天界と地上をつなぐ浄土っていうものがあるのよ」
やけに日本的な構図だなと思いながら魔法を唱えると杖で腕を叩かれた。
「イテッ」
「集中しなさい。基礎魔法はあなたの最重要課題なのよ! 小さな水は生まれているんだからあとはやる気と根気よ。契約魔法のさらなる上をいくには基礎をしっかりやらないと!!」
基礎魔法とは自然を知ること。エリエさんと一緒に木に触れたり、火にあたったり水浴びをした。一見遊んでいるようにしか見えないけど、私たちは真面目に勉強している。
瞑想は風の声を聴くにはちょうどいいと胡坐をかかされる。座禅? みたいなものは初めてだし、めちゃくちゃ足が痛い。
「グレイス、自然を堪能してどうだった?」
「久しぶりに楽しかったです。ってそういうことじゃないですよね」
「初めはそれでいいわ。自然の魔法は感情をも材料にできるし、自然のものを使うことができる。自分の魔力だけでやろうとしてはダメなのよ。それは契約魔法も同じよ」
確かに、私がいつもエレメンタルの魔法を使うときは自分の魔力だけを振り絞って炎や水を繰り出していた。炎や水が無から湧き出るわけがないと思い込んでいたからだ。風もある。水も川や海もあるし、空気のなかに水分がある。炎には酸素がいる。酸素は生き物や植物があるから多分ある。
「さて、じゃあもう一度魔法を使ってくれる? 炎系でいいわ」
エリエさんの言葉に従い、私は炎を生み出す。初めの火種は弱いかもしれないけど風魔法を応用して酸素をいれてさらに燃やす!!
「エレメンタル:フレア!!」
そういうと炎は断続的に小さなものが燃えていたものがどんどん大きくなり、正面にある木に迫る勢いだった。こんなの初めてだ!! すごい、私ってこんなに魔法が使えるんだ!!
「そこまで!!」
エリエさんの号令とともに、私は拳を握りしめ魔法を繰り出すのをやめた。
自在に使える。これなら支援も簡単になる。マリスを使わなくてもよくなるかもしれない。
「す、すごいです! エリエさん、私こんなに魔法が使えたなんて......。ありがとうございます!」
「いえ、すごいのはあなたの方よ。よくこの短時間で基礎魔法の根幹に気づくことができましたね。自然とはなにかとなにかの支えあいでできている。決して一つで、一人で補えると思わないこと、これが一番大事なことなんですよ?」
「はい!!」
辺りを見るとすっかり日が暮れていた。エリエさんは晩御飯に行く前にある所に連れて行ってくれた。そこは使われていない井戸だった。苔の生えた井戸はとてつもなく異様な雰囲気を醸し出していた。それはどこか降魔郷にも似ている気がした。
「ここがあなたが行こうとしてる地獄への入り口よ。ホントはもう少し時間がかかる予定だったんだけど、明日あたりに実践も兼ねて探検しましょう。覚えておいて、悪魔は地獄から、冥界からやって来るの。この悪魔独特の瘴気を潜り抜けてからが勝負よ」
「わ、分かりました。ところで、一体地獄でなにを捕まえるんですか?」
「ん? ケルベロスだけど?」
「そうなんですね! ってええ!?」
ケルベロスってあのケルベロスですか? 地獄の番犬でファンタジー小説とかでよく見る三つ首のやつ。それでなんでかわからないけど歌を聞かせると眠る奴!!
とりあえず、明日やることなら今騒いでもしかたない。ちょっと落ち着こう......。ふぅ
私も落ち着いたところで、井戸の紹介が終わるとエリエさんの家に戻って晩御飯の支度。今回はお世話になると言うこともあって私も台所に立つことにした。どれも見たこともない食材ばかりでどう調理すればいいかわからない。紫色のにんじんみたいなやつとかピンク色の玉ねぎ? だったりトンデモない食事になりそうだった。けど、焼いたり炒めたりするのは普通で後はご飯じゃなくてパンというかナンみたいなやつが主食として作って食卓を盛り付けていく。
みたことのない色をした野菜炒めとナン風のなにかと黄色いスープ。何を作らされたのかいまだにわからない。でも、意外と味は日本人的な軽めの味付けだった。
明日はより本格的な修行になるだろう。いや、むしろ本番と言うべきだろうか。どんなことがあっても今よりももっと強くなるために、そして自分自身の自由を取り戻すために生きていくしかない。
地獄の入り口には独特の瘴気が満ちていた。憎悪、嫌悪、悪意、恐怖......。
これらを乗り越えた先に探し求めていたものがある。




