24:勝利と喪失
魔王との対決は辛いものであった。
グレイスはマリス、サバトと協力し自分たちのためにエルフの村を守り抜く。
サバトが魔王の腕を切り落とした途端、魔王はまた姿を変えてどこかへと消えていた。
見失ったもののこちらには魔王の血がついた槍がある。ジョンの嗅覚があれば魔王のところへつれていってくれるだろう。
「ジョン、頼むわね」
ジョンは槍についた血を嗅ぎ、城の中の部屋を回り周っていく。
常に私の前にはサバトがいる。サバトは私を初めて守るべき相手として守ってくれた。
それが少しうれしかった。これまでも何度もマリスに命を落とさないようにされてきたけど、それは私自身を利用するためだって知ってる。過去も今も知っているマリスより、今の自分を見てくれている。
「さっきはありがとう。サバト」
「僕はソルエル様の命で、と言いたいが今回ばかりは君を守りたいと思ったから守った」
「そう」
何度も動物を見つけるが、どれも魔王ではないらしい。ジョンの鼻が詰まっているわけではないと思いたい。すると突然、ジョンが反応し始めて駆け出した。
「見失う前に急ぎましょ!」
「お、おう!」
ジョンを追いかけ、私たちは奥の部屋へと急ぐ。廊下にある動物の死骸が増えていく。負傷した魔王は動物を食らって生きようとしているのか? なら余計に急がないとジョンがやられてしまう!
奥の部屋に入るとフェンリス同士が威嚇しあっていた。魔王がフェンリルに化けたんだ!
「ど、どっちなんだグレイス」
サバトが二匹のフェンリルを交互に槍の先端を向ける。ジョンにははっきりとした特徴はない。ありふれたフェンリルと同じだ。でも、もしジョンなら呼べばこちらに気づいて戻ってくるはず。
「わからない、でも見分ける方法は一つしかない。ジョン! 戻っておいで」
そういうと奥側にいたフェンリルがもう一方のフェンリルに目線をそらさずにこちらに近寄ってきた。
「じゃあ、あっちがニセモンってことか......」
おかしい。偽物ってバレてるのにどうして攻撃してこないの? 向こうにいるフェンリルはいまだにジョンを警戒している。
「ジョン、偽物なんかやっつけて!」
ジョンが後ろから走る音が聞こえる。やっぱりこっちが本物だ。そう思っていたらマリスはジョンのお腹に爪を立てた。
『どちらも貴様のフェンリルではない。一度、融合した私は分かる。そして悪魔王はすでに貴様のフェンリルを食っている』
そういうとジョンを語った偽物、メレークは変身を解き、穴をあけられた腹部を抑えていた。
『悪魔だから、私の思考が読めたというのか』
メレークの言葉にマリスが静かに答える。
『弱い者の考えは単調だから手に取るように分かる。この世界の悪魔はとんだ弱者を王にしたようだ』
『だまれええええええええええええ!!!!!!!!!!!』
メレークが巨大なグリフォンに変身してその大きな爪をこちらに向けてきた。
だが、メレークの死角からサバトが槍をねじ込んでメレークの行動を阻止した。槍でメレークを押さえつけ私にバトンを渡す。
「いまだ、ジョンの敵を!」
「分かった。マリス、手を貸して!」
マリスは特になにも言うことなく手を貸した。素直なのか、ただ楽しみたいのか不気味な奴だけど私はいい奴だと思いたい。
『さあ、私を楽しませろ! グレイス・アルマン、お前の叫びを見せてみろ!』
「はああああああああああ!」
私は怒りと力を抑えて、次元鏡を取り出してフェニックスを呼び出した。フェニックスはメレークを焼き尽くした。
『ふん、つまらない人間になったな』
「私たちが直々に倒す必要があるのは天使だけよ」
城の中にいたフェンリルはメレークの死亡とともにどこかへと消えていた。やっぱりあれはジョンとは別ものだったのか......。奥をみるとフェンリルの頭だけが転がっているのが見えた。
「これ、ジョンなのかな?」
「彼を入れていた次元鏡をそれにかざして割れたらそういうことだと思う」
サバトが目をそらして覇気のない声でつぶやいた。私はジョンのいた次元鏡を取り出した。
パリン
信じられないほどあっけない死をひび割れから粉々に散っていく次元鏡が軽薄に知らせた。
行こう。彼の死は無駄にしないためにも私はエルフたちから聞き出さないといけないんだ。
彼らを利用するためにも前へ進もう。歪む視線をこすりながら一歩ずつ噛み締めた。
情報を得るには相当の痛手を負ったグレイス。
憎しみ、悲しみを心にしまい、エルフたちの元へと急ぐ。




