23:魔王と青年
グレイスたちは湖にいる魔王と対峙する。
そこに待ち受けるは動物の集団とそれに成り代わる魔王。
翌朝早く、ロンドに湖のそばまで連れて行ってもらった。
行き方だけ教えてもらった後、湖にたどり着くとそこには小さめなお城が湖の上に立っていた。
「あれか。それにしても魔王か......。サバト、なんか知ってる?」
「この辺りのことは知る由もない。僕も魔王がいるだなんて初めて聞いたよ」
サバトはどうやら知らないらしい。それくらいこの地は天使にとっても勇士にとっても未開の地ってことなのか。
「じゃあ、ガラゴなら知ってるかな? おい起きろクマ公!!」
ポシェットの中からぬいぐるみをとりだしてブンブン振り回してみると意識を取り戻したのか叫び声をあげていた。やっと起きたと思って近くの岩に座らせた。
『最悪の目覚ましだぜ。俺様船酔いでまだ気分が悪いんだぜ? 病人もっといたわれよ』
「減らず口はいいから、それよりエルフの村にいる魔王についてなんか聞いたことある?」
『うーん。ああ、悪魔王メレークのことだろうな。あいつはめんどくさいぞ~。なんせあいつは見た目を変えられるんだからな』
「なんだこいつ? もしかしてギルドで隠してたのって」
そういや、サバトはこいつ見るの初めてだっけ? いや今は悠長に紹介している暇はない。
「説明は後でね。それより見た目を変えられるって、お城自体に変わることは?」
「ない。メレークは生き物だけだ」
とても有益な情報を聞いた。たまには役立つじゃないか、このぬいぐるみ。
「中に入ってみるかい? グレイス・アルマン君」
そうだ、外部だけ調査しても意味ない。内側も調査しないと......。俺はうなづいて湖面に浮かぶ一隻の小舟を使って城の中へ侵入した。城は俺たちをすんなりと受け入れてくれた。
城の中にはいると小動物がいたるところにいた。うさぎやらネコやらカエルやら、おまけにハエのような虫まで羽音を鳴らして飛び回っている。
「虫は本物だけど、その辺にいる動物は剥製みたいだ」
もしそうだったとしても、剥製の真似をされたらどれが魔王なのか判別がつかない。
魔王を捜しているとカサカサッという音が聞こえて嫌な予感がして下を見つめると、そこにはゴキブリのような黒くテカった虫がいた。虫は敵対するようにこちらに向かってきながらどんどんと変化していって長髪で幸の薄そうな男となって走ってくる。
よりによってゴキブリに変身してんなよ気持ち悪い!
彼はさらに、変化して小さな蜂へと変わっていく。
「ひぃいいい」
叫びをあげながらも俺はポシェットからフェニックスの次元鏡を出そうとしたがなぜかガラゴを掴んでいた。慌てた俺はガラゴを当たるはずもないのに魔王めがけて投げつけてしまった。
『うおおおおおおお!? 投げんじゃねええ!』
ガラゴはそういいつつも、自分の腕に魔王が変化している蜂の針をくっつけて瘴気を浴びせていた。だが、魔王はびくともしない。人が死ぬレベルの猛毒を耐えきってやがる!?
『それだけか? 瘴気の悪魔は墜ちたものだな』
「魔王メレーク! エルフの女子供を殺すのはやめろ!」
サバトが勇者のように振舞って魔王に一喝する。男らしい一面に俺は憧れを感じた。俺もこんな風になりたいと思っていた時期があった。でも本当の俺はなにもできなくて、手を伸ばすこともできない小心者。
『笑止。私は虐殺の悪魔王メレークだ!』
そういうとサバトのことなど目もくれずに俺の方に近づきか細い首を絞め始めた。彼の顔は愉悦な笑顔で満ち満ちている。腕に力の差がありすぎる......。離れないっ! マリスは自分でなんとかしろと言わんばかりに腕組みをしている。
俺が死んだら、そこで終わりなんだぞ!? なんのメリットがあって!
地面から離れ足をバタバタさせていると掴まれていた腕が切り落とされていた。ようやく俺は自由になったのだがサバトは目くじらを立てて俺を守るように前に立つ。
「彼女は殺させないぞ、悪魔め!」
その言葉を聞いた瞬間、首をしめた悪魔王にもいったようにも聞こえたが、俺自身の中にいるマリスにも言っている気がした。ああ、これが守られるということだったのか。はじめて俺は、私になった。私の感覚。弱さ、儚さを包む気高さと優しさはどこまでも私を私らしくさせた。
変わる心境。今の自分という生き方を始めるグレイスに悪魔という影が差す。




