18:太陽と海龍王
情報を手に入れるためソルエルとのかりそめの同盟を組んだグレイス。
そこに待ち受けるは海の支配者、海龍王だった。
手錠を掛けられ、ソルエルとサバトの二人に監視されながら俺は海辺に連れてこられていた。
「どうして私が必要なんだ?」
「悪魔使い(デーモンテイマー)として海の悪魔、海龍王をこれで捕獲して欲しい」
するとソルエルは円盤のようなものを渡してきた。 DVD......なわけないよな。
「これは?」
「お前がギルドに探し求めていたものだ。その次元鏡をモンスターに張り付けて契約魔法を唱えればモンスターを捕獲できる」
続けてソルエルは海辺を眺めて語り始めた。
「この町は海龍王、ヴァルナによって日々脅かされている。これでは人が幸せに暮らすことができない。俺はなんどもなんどもあの海龍王に挑んだが、ことごとく返り討ちにされた。できればこの手で殺したかったが」
人間の幸せなんてどうでもいいんだろ、こいつが欲しいのは人の血肉だろ。
「それは人間を食べるための戦略か?」
「食べるからこそ、最低限人間にはストレスのない暮らしをしてほしい。カマルエルは自分のタイミングで美しいものを育てて食べるが、俺はそんな気色の悪いことはしない。ただ、守護の代償が人間一人ってだけだ」
人を虫けらのようにただむさぼっていたカマルエルやウィナスとは違う雰囲気を感じた。ソルエルにはマリスやガラゴのような曲りなりの信念を感じてしまった。こういうことか......。やっかいな相手って言うのは......。
『その海龍王とやら、興味がある』
ボソッとマリスが呟いてきた。珍しいものに興味もつな
「珍しいからか?」
『殺せば、天使の怯える姿が見えるのではないかと、私は今心を躍らせている』
音はしなかったが彼は純粋に笑っていたような気がする。悪魔を倒すのは面倒くさいけど、このソルエルという天使とは取引の余地がありそうだ。
「ソルエル、やってもいいけど今のままではこちらにメリットはないわ」
「ならどうする?」
「情報をちょうだい。天使に関する情報を......」
「どんな情報でも開示すると約束しよう」
取引を終えた俺たちはサバトの漕ぐ船で海龍王の出現する位置までたどり着いた。フェニックスを使って空を偵察しているがそれらしきものは見つからない。
「ほんとに海龍王なんているの?」
サバトに小言をぶつけていると彼は静かな怒りで返した。
「そんなにソルエル様に従いたくなければ来なければいいのに」
「そういうわけにはいかないわ。私はデーモンテイマーなんて言われてるけど、本当はその悪魔と離れたいの。離れるには私たちを無理やり契約させた天使を見つけないとダメなの」
「ふーん。おい、波が静かになったぞ!? 来たんじゃないのか?」
すると突然、船が大波にさらわれるかのように垂直に上がっていく。ゆったりとした動きだったのでなんとか飲み込まれずに済んだ。フェニックスがやたらご機嫌斜めだ。これは本当に海龍王とやらがくるかもしれないな。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
太陽がギラギラしたうろこを反射させている。大きな口と牙、角......。ファンタジーの漫画で見るドラゴンだ。蛇のようにうねうねして顔は俺たちが乗っている船を軽く飲み込むくらいには大きい。
「フェニックス、バーンブレスだ!」
炎の吐息、バーンブレスはフェニックスの得意技ともいうべきものだろう。炎を吐き出すとヴァルナは少し怯んでいた。そのまま陸に追い詰めよう。
フェニックスの起こす熱風は海水は異常に蒸発させ天気は急転直下にしけてくる。雨雲は俺たちの乗る船の上陸を妨げるように強く激しくなる。さらに、ヴァルナが暴れて波が見たこともない壁へと変わっていく。すると、ソルエルが瞬間移動で空中に現れて雨雲を蹴散らしていった。ただの正拳突きとは思えないような一突きは太陽を再び拝ませてくれた。
「今だ! デーモンテイマー!」
定員ギリギリの船に降り立ってきたソルエルが俺に命令してくる。言われなくてもやってましたよっ!
海龍王が照り付ける太陽に目をくらませているうちに俺は次元鏡を取り出して投げ飛ばした。飛距離が全然伸びなかったのをフェニックスが掴んでヴァルナに張り付けた。
「『天使の名において我と契約せよ』テイム!」
次元鏡が光り初めドラゴンが小さくなって鏡に吸い込まれていく。それとともに波は静かになって、最終的には鏡はフェニックスを経由して俺の手元に戻った。
海はもうコリゴリだ。だいぶ波に揺られて今になって船酔いしてきた。サバトも気分が悪そうにしていたので元気なソルエルが優しく船をこいで上陸を急いだ。
天使は悪魔を憎み、殺すのは人間が人間を恨み殺すのと変わらないのかもしれない。
次回「天使と恨み」




