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14:はじまりと覚悟

旅に出る前に思うところがあってバベルの元へと戻ってきたグレイス。

彼女は天使について知りえた情報を話した。

とても気持ちのいい朝とはいえない。児童所は崩壊して瓦礫だけが満ちに散らばっていた。

アリスのことは気になるけど、黙って立ち去ろう。その方がきっといい。彼女をこの旅に巻き込んでしまう前にバベルの元へと向かおう。


視察だけって言われてたのに、カマルエルを倒してしまったことを報告しなくちゃね。野宿をした後の朝方に裏ギルドの方へと戻ると裏ギルドが夕方並みに込み合っていた。


「おい、施設が悪魔に襲われたってホントか?」


「悪魔ってやべーな。勇士団は何やってんだよ」


立ち話をしている住民が児童所の噂をすでに聞きつけていた。顔がみられないように身を潜めてバベルのいる受付に戻った。するとバベルは俺をみつけるなり、腕を掴んで外へと飛び出す。人気のいない細い裏路地に両手で壁ドンのような形で詰められる。生まれて初めての壁ドンがコボルトになるなんて......。されるならイケメンがよかったなぁ。ん?


「おい、お嬢ちゃん。もしかして児童所の件っておまえのせいじゃねえだろうな?」


「ははは、すいませんでした......」


「おいおい、謝ってほしいから詰め寄ったんじゃねえぜ?それなら大した腕だぜ。で、なんか天使についてわかったことは?」



「天使は、人間を食べていました。そして竜人も食べようとしていました」


「人間はともかく竜人も? うーん、過去の文献と違うな。まあいい。だいたいは正解だ。天使は人間の魂を食べる。もっとも純粋な魂を食べるのが好みらしい。子供の行方不明事件が天使が降臨してから極端に増えて、さらにはそれは悪魔のせいだから、悪魔を寄せ付けないためにとかいってタイミングよく児童所なんてものを作ったから怪しいとは思ってたんだ」


なんとなく繋がった。天使は人間の魂を食べる。悪魔は関係なしに人の命を奪う。だから、彼らは悪魔を廃絶したんだ。でも、悪魔を守る価値なんてあるのか? こんな気味の悪い奴ら、悪人であって当然じゃないのか?


『なんだよ、それ! 俺様達とんだ悪役として踊らされてんじゃねえか!』


『私も今、はじめて怒りというのを感じた。これも、人間と一緒にいたせいだろうか?』



ガラゴとマリスは憤慨しているが、そもそもこいつらに怒る資格なんてない。というかマリスは怒りという感情はない? でも感情って言ったらいつもあいつ笑ってるじゃないか。


「そもそもお前らに怒る資格なんてないだろ。散々、人間を殺してきたくせに」


『そもそも感情の無い私に怒ると言うこともない。殺すことは我々の使命であり、アイデンティティだ。そこに感情はない』


「でも、おまえいつも笑ってるだろ!!」


『私が笑うと言う行動をとるのは、人を殺すときに笑えば、より絶望する顔が見れると学んだからだ』


バベルは俺が悪魔としゃべっている理由も聞かず、ただ話し終わるのを待っていた。

「にぎやかにしてるところ悪いが、話を戻すぞ。お嬢ちゃん、探し物は見つかったか?」


「いいえ、あそこにいたのは私たちの捜してる天使じゃなかった。でも、やることは見つかった」


そういって、俺はバベルの腕をどかした。後ろにいる彼に振り向いて力強く伝えた。


「天使を全員倒す。そして、自由になる」


「俺はお前の事情は聞かねえよ。お前が連れてるやつらが何者なのかも聞かねえ。でも、天使を殺してくれるんだろ? 俺は一族を天使に食料にされた。だから、裏ギルド作って反抗しようとしたんだ。でも、だめだった。今じゃ、自由になろうとしないゴロツキの腑抜けばかり集まる違法酒場さ。だから、俺の代わりにお前が俺の野望を、復讐を託していいか?」


「あまり、人に復讐を代行しようとするのはいい考えだとは思わないけどわかった」


バベルの言葉を背にして私たちは立ち去った。それにしてもジョンが帰ってきてくれたのはいいけど、やっぱり奇妙だ。フロストの元にいたはずなのに......。彼の身になにかあったのだろうか?


私たちは裏ギルドから緩やかな坂を上り、奇妙でおぞましいあの降魔郷へと足を進めていく。次の天使かもしくは悪魔のいる場所のヒントくらいは手に入るかもしれない。


降魔郷の奥深く、悪魔を模したドアノブや飾り物が特徴的な屋敷の前に再び戻ってきた。

ドアをノックしようとするとドアはすでに開いていた。


「不用心だな......。フロスト、いるのか?」


『待て、グレイス・アルマン。 何かがおかしい』


そよ風が頬を撫でる。窓は開いていない。ドアが急にバタンと閉まる。

開かない? 普通なら内側から鍵を閉めるから、閉じ込められるなんてありえない! なにかの魔法か?


「ちょっと! どうなってるの!? くそっ、何故か開かなくなってる!?」


風はドンドン強くなり、フロストの研究資料が宙を舞っていく。何が起きているんだ?


「悪魔を研究する変人がいると聞いたけど、ほんと醜いねぇ。君もそう思うだろ、グレイス・アルマン」


美しい少年のような顔つきとは対照的に彼についている返り血がおぞましく感じる。一体誰なんだ?

いやでも、この声どこかで聞いたことのある......。まるで聖歌隊にいる少年の声のような荘厳で幼い......。


「君のお母さんもとても美しかった。父親は醜かったから別の子にあげちゃったけど、いいよね? 白銀のデーモンテイマー」


「どうしてそれを!?」


彼の手から滴り落ちる血のなぞると床には何かが倒れていた。もうだれかなんてわからないくらいぐちゃぐちゃの肉の塊。そして、血で真っ赤に染まった白衣が目に入った。そうか......母を、フロストを殺した、いや喰ったのはこいつなんだ。


「ぼくが天使警団をまとめているからね。まさか五属聖のぼくがこんな後処理をしなくちゃいけないなんて、あの子はなにを考えているのやら」


彼の言葉を聞いた瞬間、ガラゴが青ざめ始めた。


『おいおい、自然の摂理エレメントを守る天使様がご登場とは......。グレイス、今アイツを相手にしちゃあダメだ! 殺される!』


誰だろうと問題ない。おれは、こいつを許さない! 殺してやる!


「そんなこと言ったってねぇ、こいつは天使なんだ。しかも、母親の仇なんだ! 殺さずにはいられない! ジョン、そんなやつかみ砕いてしまえ!」


『早まるな、グレイス・アルマン!!』


マリスの制止をよそに俺はジョンに命令した。だが、五属聖と名乗った少年はすでに、そこにいなかった。どうなっているんだ? 確実に捕らえたはずなのに......!


「風そのものである僕を『捕まえる』なんて無駄だよ、美しい戦い方じゃない。あーあ、飽きちゃった。でも、また会える気がする。じゃあね」


そういうと強風と共に玄関の扉を壊して去っていった。なんていうパワーだ。魔法でもなんでもない......。ドアは閉められていたんじゃなかった。風圧の差で開けられなくしていたんだ!


これから先、旅を続けていく中で、天使はもっと強くなっていくんじゃないのか?

それなら、今以上に仲間が必要だ。

悪魔以上に強いモンスターと契約して戦いに備えなくちゃ......。

グレイスは、天使に立ち向かうために新たな仲間を増やす旅へと向かうのだった。

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