12:出会いと別れ
竜人のアリスと仲良くなったグレイス。
そしてそれを見つめる少年が一人。
「おはよ! マキお姉ちゃん」
初めて会ったときの暗さとは見違えるほど可愛らしい笑顔が増えたアリスに、起こされた私は少し自分の目的を忘れかけていた。
「朝ごはん、行こっか」
「うん」
このまま、素朴で平和な毎日が続けばいいのに......。
食堂に着いて朝ご飯をアリスと食べていると、なぜかにらみつける帽子をかぶった男の子がいた。
「あの子、知ってる?」
「ううん、しらない子」
はて? と思いつつ、朝ごはんを食べ終えた二人分のお皿を流しに戻した。
少し、時間がたち、午前の自由時間。ちょっとした事件が起こった。
朝にアリスをにらんでいた帽子の子が、こちらに直行して彼女のことを小突いてきた。
「え、なに?」
「......」
男の子は、少し顔を赤らめてそそくさと去っていった。
それからというと、その子は何度もアリスにちょっかいを出していた。
もしかしてあの男の子、この子のこと好きなんじゃ......。
『見てらんねえぜ、グレイス。あの子またあのガキンチョにおもちゃ取り上げられてるぜ?』
ガラゴが悪魔らしくもないことも言うもんだ。
「前から思ってたけど、あんた悪魔らしくないよね」
『子供は殺さねえ主義なだけなんだよ! 子供に罪はねえ。俺様が殺戮するのは大人さ』
「私のこと殺そうとしたくせに?」
『悪かったって! あんときは、むかついたんだよ』
そうこうしてるとアリスがとうとう泣き出した。男の子もそうなるとは思わなかった様子で、おどおどしていた。二人とも可哀そうに......。
俺は思い切って男の子に話を聞いてみた。
「なんだよ、しんじん。またおれになんかよおか?」
少し舌足らずな声が偉そうな口をマイルドにしてくれている。こいつ、ほんと学習しねえよな。
「どうしてアリスちゃんをいじめるの?」
「だって、ちょっかいかけたら......おもしろかったから」
「あの子泣いてるよ。かわいそうだと思わないの?」
「こんなことなるっておもわなくてさぁ......。おんなのことちゃんとはなしたことねえし、おれ、どうしたらいいんだ?」
「私とは話せてるじゃん」
「ね、姉ちゃんは違うんだよ! だって、あ、あの子は......」
「ははぁん、好きなんでしょ」
直球に聞いてみる。それが彼にとっての薬になるはずだ。彼は顔を真っ赤にした。
「ち、ちげえし!」
「そうじゃなくても仲良くなりたいって思ったんでしょ? じゃあどうするの」
「あ、あやまるよ。そしたら友達になれるかな......?」
「なれるよ、きっと。私もあの子と友達だし、君とも友達になりたい。私、マキ。あなたは?」
「え、エール......」
「エールか、いい名前じゃないか。応援するよ、エール」
多分俺の想っている意味とは違うんだろうけど、彼は少し晴れた顔つきで大きくうなづいてくれた。父さん、母さん。俺、少しでも役に立ててるかな?
彼と別れた後、丁度昼になった。ところが、エールはいない。アリスはカマルエルに抱えられてうれしそうにごはんを食べている。お昼が終わってもエールがどこにも見当たらない。
俺は少し悪寒がした。カマルエルもいない。なぜ?
俺は広間を抜けて通路を走った。
バリッ......。バリッ......。
異音がどこかから聞こえてくる。嫌な音だ。俺はこの木造の床で音がしないようにひっそりと音のする方へと歩み寄る。
バリバリッ......。バリバリッ...ゴキッ!......。
少し、廊下が濡れているけど、この辺が暗くてなにかわからない。まだお昼なのにここの廊下は灯が来ないようになっているんだ?
「マリス、灯」
『私を便利道具ではないぞ! まぁいい。ここにある松明を使え』
火はぼんやりと床に流れ出る血を写した。
血は一つの扉から流れている。
「ち、血っ!?」
思わず大きな声が出そうになった。力強く口をふさぐ。言葉が、嗚咽が飛び出ないように押さえつけて開いた扉から覗くとそこには赤い部屋に浮かぶ白い服を着た化け物がなにかを食べていた。
『わるいこの魂はおいしくないですねぇ。やはり、竜人の肉が食べたいなぁ。血が飲みたい......』
何もない天井を見上げた後、それは何かを吐き出した。それは帽子だった。見覚えのある帽子。見覚えのある帽子。ボウシ、ボウシ、えーる、えーるえーる......。
はきでる言葉と昼飯を口の中で咀嚼した。何度も何度も、その場から動けずにただ反芻していた。
あの天使は、人間を食べていたのだ。見間違えるはずがない。そして、次はアリスちゃんが......。
忘れていた、この世界が残酷だって言うことに......。
次回「天使と悪魔」




