110:最後の共闘
グレイスとマリスは過去の因縁ともいえるルシエルとの最終決戦に挑む。
マリスは、横にいた私を追い抜きルシエルの身体に蹴りを入れる。
ルシエルはというと、力がなくなったのか高速化せずに、蹴りを受けてそのまま倒れ込んでしまう。
「不完全なあんたならすぐに倒せそうね」
「ぐっ......。小癪な! 基礎魔法:ブリザードテンペスト!」
猛烈な吹雪が塔中をかけめぐるも、そんなものは私たちには通用しない。
私は自分の魔力を思いきり使い、猛吹雪を打ち消す。
「無駄よ。基礎魔法:フレイムテンペスト! 吹雪を熱気で打ち消す!」
火炎放射器のような威力で炎は、まっすぐ吹雪を打ち消しながらルシエルへと向かう。
そのまま炎はルシエルを吹き飛ばしていく。
『あの拍子に逃げられるかもしれん! 追うぞ!』
「でもどうやって!? 私たちにはもうフェニックスもケルベロスもいないんだよ?」
『私と一つになれば、多少の高さから落ちても大丈夫だ! さっさと行くぞ!』
私はマリスを息を合わせて、塔から飛び降りる。
マリスは私に飛び移り、久しぶりに力を貸してくれた。その力はどこか温かみがあり、嬉しくなる。
彼のぬくもりを感じながら地面に着地すると、ルシエルは山へ登っていた。
塔といい、山といい、あいつ、高い場所に行こうとしているのか?
「何をするつもりだ! ルシエル」
「素晴らしい世界に変える! そのためには神聖な場所が必要なのだ! 山はその中でも、最も神聖というべき場所だ。世界は、この山から始まるのだ!」
私も世界が嫌いだった。前世でも世界を変えることができれば、どれだけ楽かと思い描いた。
それは間違いだった。変えるべきは自分自身だった。自分が変われば自ずと世界の見方が変わる。
「この世界も悪くないわよ? 少なくとも私には」
「黙れ。私は、私の栄華を築くための世界を創りなおす。創り直した世界で私は、神に! ぐぅわは!」
こいつの話は聞き飽きた。話の途中で、私はルシエルの鼻柱を折るくらいの強さで殴っていた。
マリスは、私から離れたと思うと少し口角を上げ、私の肩に手を乗せる。
『中々いい拳だったぞ。今のこいつは、相当弱体化している。決めるのは今だ』
私はマリスの手を優しく払いのけて、微笑み返す。
「分かってるって......。一緒にいこう」
私たち二人が近づくと、ルシエルは震えだした。
だが、その眼差しはまだ諦めている様子ではなかった。
「君たち、忘れていないか? まだ私は、切り札がある!!」
途端に私たちとルシエルの間に突風が吹き荒れた。突風は小さな台風となり、私たちを襲う。
風は強く私たちをルシエルを引き離し、その中からウィナスが現れた。彼は美しく私たちに微笑みかける。
「やあ。グレイス、マリス」
「ウィナス......」
ウィナスはルシエルのそばによると、片膝立ちで座る。
ルシエルの方は、ウィナスの方に這いずり寄り懇願する。
「ウィナス、忠実な僕よ。君の力が必要なんだ......。助けてくれないか」
もし、あれでウィナスまで取り込まれたら面倒になる。
マリスと私は、以心伝心で頷きあってウィナスたちの方へ走る。
だが、それを止めたのは紛れもなくウィナスだった。
彼は、私たちにジェスチャーで「止まれ」と合図している。
「僕は、今とても幸福なんだ。ルシエル。君が、今死ぬ瞬間を見ることができて」
「なに?」
「僕は、貴方が嫌いだ。貴方は知らなかったかもしれないが、貴方を天界から追放したのは僕だったんだよ?貴方の美しさが気に入らなかった。だけど、貴方の作った世界は好きだ。特に人間はとても面白い。彼らの美は、私も守りたいと思った。だから、貴方には悪いがここで消えてもらう」
ルシエルの顔は見る見る青白くなっていく。ウィナスは、彼の顔を見ながら微笑み、長い髪をかき上げて、私たちの隣に並んで仲間であるかのように腕を組み始めた。
その光景をただ、激高するわけでもなく命乞いをするわけでもなく、ルシエルは高らかに笑い始めた。
「ハハハハハハハハッッ! ハハハ......。薄々そんな気はしていた......。君に頼んだ私がバカだったよ。 私はもう誰の助けも必要ない! 不完全でも、絶対にやり遂げなければならないのだ! それが、私の賭けた時間と人生だからだ! 無駄にするわけにはいかない!! ここで、世界を終わらせる! 世界ごと契約魔法で塗り替えてやる」
そう言って、彼は自暴的になりながら魔法を唱える。
ルシエルも私もこの世界は好きじゃない。私だって、変える力があれば彼のようにしていたかもしれない。でも、私は今この世界で生きていきたいと思ってる。これからもずっと今を生きる人たちとともに生きていきたい......。だから、詠唱が終わる前に、あいつを止めないと!!
私は、マリスとともにルシエルの元に走り出す。
「マリス、行くわよ!」
『これで最後だ! 私は私の過去に決着をつける!』
ルシエルの腕をマリスが引っ張り、腹部に蹴りを入れる。さらに、掴んでいた腕を振り回して私の方へ飛ばす。目の前に来るタイミングに合わせて私は拳を握りしめ飛び上がる。
「基礎魔法:ウォールロックスレイ!」
ルシエルを眼下に捕らえた拳から、同じ大きさほどの岩が降り注ぐ。
その速さは私でさえ、一つ一つ追うことはできないほどだった。
ルシエルは叫ぶ余裕さえなく下へと落ちていく。
「ぐはぁっ!」
地面に落ち切ったころにはルシエルは、縦に引き裂かれた跡から血が滴り始めていた。
さらに、私の魔法はつきることなく天から岩が降り注いでいく。容赦なく、絶え間なく、徹底的に......。
「はぁはぁ......」
魔力が尽き始めると岩も次第に弱まり、自然と消えていく。地面には見るも無残な姿のルシエルがあった。私は近づき、彼の様子を見た。手に触れるも冷たく、脈がない。だが、これは人間の生死を見極める方法だ。天使はどうやって生死を判断したらいいんだ......。
「し、死んでいるのか? それとも、復活の糸口をどこかで探っているのか?」
「そんな余裕、なかったと思うよ。彼は死んだ。天使の僕がいうんだ、間違いないよ」
ウィナスは、組んでいた腕をほどき顔に手を当てる。
彼の手はうっすらと消えかかっていた。彼もルシエルから生まれた存在だ、彼が死んだ影響が体に出ているの?
「あんた、その体......」
「そうだね。この美しい体も、ルシエルがいなくなった今、すぐに消えてなくなるだろうね。おめでとう、グレイス・アルマン。君は、すべての天使を殺してこの世界を変えた」
間接的にとはいえ、ウィナスも殺したことになったのか。
だが、正直そんなことはどうでもいい。自分の運命やしがらみは今消えたんだ。
私はたった今、自由になったんだ......! その喜びだけあればいい。
「あんたに恨みはないわ、ウィナス。消えるまでの余生、自分たちの罪をかみしめて生きることね」
「美しい君や、人間に負けたなら喜んで罪を受け入れるよ。ああ、せめて生まれ変わったら人間になりたい......」
ウィナスが孤独に去っていくのを見守った後、私たちは城の後ろに佇む山にある獣道を頼りに街へと向かった。
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一度城内に戻り、いまだに意識を失っているマルファスとアリスを私たちで抱え込み首都を後にした。二人の足を引きずりながらも、川の水や木になる果実を頼りにゆっくりと時間をかけて拠点へと戻る。しだいにアリス、マルファスも意識を取り戻して4人でやっとの思いで革命軍のいるソルの街へとたどり着いた。
ボロボロになった私たちをレイアさんやジーン、先に戻っていたキックスやバベルたちが温かく迎えてくれた。
みんなの優しい笑顔を見た途端、私は気が抜けてしまった。
自由を手に入れたグレイスは、拠点に戻り革命軍の元に帰還した。
だが、彼女には最後の試練が待ち受けていた。




