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108:最後の契約

グレイスの前にルシエルは堂々と立つ。

彼はマリスと一つとなるために、強引な手段を使いだす。

 「仲間へのお別れはすんだか? グレイス・アルマン」


「ええ、おかげさまで」


ルシエルは、セイネプトスの影響か背中から翼が片方だけ生えていた。

いよいよ顔つきも、私と似てきて目鼻立ちがはっきりしてきた。自分で言うのもなんだけど美人だ。

にしてもマリスがなくてもこれで復活したのか? それとも、これでもまだ不完全だというのだろうか。


「さぁ、マリスよ。私と一つになるのだ! この世界をやり直し、再び私の楽園にするのだ」


『貴様の戯言には興味ない。一人でやっていろ』


マリスは、腕組みをして軽くあしらう。

ルシエルは、眉間にしわを寄せキレだす。


「ただの残りカスでできた存在が意思を持つとは......。まあいい、お前も吸収するまで」


そういうと、ルシエルは手をこちらに伸ばしてくる。

マリスは、ルシエルの方に引きずられていく。


「させるかぁ!」


『この力を利用し、貴様を殺す!!』


私とマリスがルシエルに近づき、息を合わせるように顔を殴り飛ばす。

マリスを引きずる力が弱まり、ルシエルは部屋の奥へフッ飛ばされていく。


「グレイス達が幸せになれる世界にするために、あなたには消えてもらう! ルシエル!」



アリスが双剣を使って、ルシエルに追い打ちをかける。ルシエルは抵抗できずにメッタ打ちにされていく。さらに、マルファスがアリスの影から現れてルシエルをそのまま魔法で拘束する。


「黒魔術;影縫いの拘束からは誰も逃れられない。たとえ、天使であってもだ。私はこの時を待っていた。私の顔を覚えているか、ノマド! いや、ルシエルというべきか」


マルファスの問いかけに、ルシエルは吐き捨てるように答える。


「貴様のような粗悪品、忘れたくても忘れられるか。お前も私の手で消してやる。すべて、私の失敗作だ......。私の思い通りにならなかったこの楽園も! 力の名のもとに消し炭にしてやる!!」


ルシエルは、影につかまりながらも、またマリスに手を伸ばして彼を吸収しようとする。

マリスは先ほどと同じようにその力を利用してルシエルに拳を食らわせようとする。


「なんども同じ技が通用すると思うな!! 基礎魔法:フリーズ!」


ルシエルを拘束していた影と、向かってくるマリスを一瞬にして凍らせる。

凍った影をたやすく振り払い、ルシエルは凍ったマリスにゆっくりと近づく。

私も凍ったマリスを取り戻そうとルシエルに近づくも、基礎魔法:エクスプロージョンの爆発で吹き飛ばされてしまった......。



「くっ!!」


「本当に、面倒な連中だ。さぁ、力が戻るぞ!! 起きろ、マリス」


ルシエルが指を鳴らすと、氷漬けにされていたマリスが一瞬で元に戻る。

マリスが思考しようとした瞬間をつき、ルシエルはマリスを取り込む。


「マリス!!」


『近づくな、グレイス・アルマン! もういい。私に構わず、私の分まで復讐を果たせ。幸せになれ!これが、私との最後の契約だ!!』


「最後まで抗うか! いい加減に私のモノになれ!! マリス!」


そういうと、マリスはルシエルの体の中に消えていった。

すると、ルシエルの背中には大きな翼が一対となって広がっていった。


「マリス、その契約はまだできないよ。だって私は、あなたに殺されたいんだ! だから、私から勝手な約束をさせて。必ずあなたを助ける。そして、一緒に生きよう......」


「生きる? それは不可能だ。この地を生み出した存在である私に歯向かったのだ。塵も魂も残さず消滅させてやる! わたしは光の堕天使 ルシエルだ!」


ルシエルはそう言うと、背面に光り始めた光輪をさらに輝かせた。

目をつぶった瞬間、ルシエルが消える。


「どこだ!?」


彼を殺せば終わる。私自身の自由が手に入る。その先に、幸せがあるはずなんだ。

その焦りが、ルシエルを見えなくしているだけだ。落ち着け、目の前のことに集中しろ!

目を凝らしていると、何かが動いている残像が見えた。あれは、ルシエルだ!!


「無駄に動くな! 相手の能力を見極めることが先決だろ!」


残像の方へ向かう私にマルファスが苦言を呈するが、そんなことは気にしてられない。

おそらく相手の能力はただ早く動くことができるだけだ。でも、相手が動いているならこちらが正面からぶつかれば隙が生まれるはずだ!! 一か八かやってみるしかない!


「ケルベロス! やつを足止めするんだ!」



ケルベロスの雷鳴が響くも、残像は止まらない。私はそれでも、残像の軌道上に立ちつくす。

だが、残像は止まらずに私の身体を透過していく。

残像が少し止まり、ルシエルが疲労した表情でいた。


「まだ、完全ではないが上々だ。......哀れなグレイスよ、光を知っているか? 光は人間の可視できない速さで動いている。人体を透過するほどにだ。今、私は君を透過したんだ」


光? 彼自身の天啓は光に関するものということか......。だとしたら、私たちには捕まえることはできないのか? いや、でもなにかがあるはずだ。考えを巡らせる私にルシエルはさらに語り掛ける。


「光とは、恵みだ。君たちの文明を見守り、栄えさせたものだ。私の一振りの羽が文明を作った。楽園を作った。だが、天使がそれを奪った。だから、これはすべてをゼロに戻すための光だ。私自身が望んだ世界へと導くための光......」



「そんな世界、誰も望んでいないのに......。どうして!」


アリスはルシエルに語り掛ける。

彼女の言う通り、ルシエルの世界は誰も望んでいない。彼だけが幸せになる世界なんておかしい。

みんながいてこその幸せなのに......。


「言ったはずだ。ゼロに戻ると......。ゼロ地点に自由意志は存在しない。ただ、私のためにあるものがすべてだ!! そして、光は与えすぎると毒になる。グレイス、君は光に当たりすぎた」


突然、私の身体がミシミシときしみ始めた。

さっきルシエルと正面衝突した衝撃が、今この状況できたというの?

足がふらつき始め、床に手をついてしまった。


「グレイス立って! 大丈夫、私が治すから!!」


アリスは私に近づき、フェニックスを次元鏡から呼び出した。

フェニックスの落とした羽をアリスはペタペタと私の足に貼り付ける。

さらに、彼女は自分の指を傷つけて血を私の口の中に含ませた。


「竜人ってすぐに回復するんだって。その秘密は血液にあるって、ニーちゃんがいってた。だから大丈夫」


アリスは、赤子を寝かしつけるように私の肩をポンポンと叩く。

すでにルシエルはこの場所にいなくなっていた。より、自分が完全になるようにするために時間を稼ぐつもりか......。


「そのニーデルベングを呼び戻すか? 私たちだけでは、到底打ち勝つことはできないぞ」


マルファスは、いつになく弱気なことを吐き出す。

バベルを送るために、ニーデルベングとキックスを送り出したけど、彼らがいないと上級魔法に対抗できる手段がない。でも彼らには重要な役割がある。


「だめよ。彼らはバベルを拠点に送り届けるまでそばにいてもらわないと」


それに、結局ここで巻き込んで死んでしまっては意味がない。

アリス達も、どこかのタイミングで離れないと......

実験室や拷問部屋ともいえるこの場所と同じように、私たちには絶望があふれていた。


「なら、方法は一つしかない。マリスを取り戻すのみだ」


そうだ。マリスさえ取り戻せば、私たちにだって勝機はあるはずだ。

ようやく、私の足に自由が利くようになってきた。ルシエルを追いかけないと!

フェニックスを戻すため、次元鏡を取り出した。


「ありがとう、フェニックス。もう少し頑張ってね。みんなもありがとう、でもここからは私一人で行く」


私は二人が反論する寸前に、首に打撃を与えて気絶させた。

これでいい。これは私の戦いなんだ。はじめから、こういう風にできればよかったのに......。

ジョン、キオナ、サバト......。みんな、弱い私を許して......。


私は鏡をギュッと胸に抱き、一人ルシエルが開けた扉を通り、階段をあがっていく。







誰一人として死んでほしくない願いの中、グレイスは一人ルシエルへ挑む。

これは、個人的な復讐か、自由意思のための戦いか......。

戦いは最終決戦へと向かう。

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