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100:幸せになるための契約

やっとの思いでユピトリス、そしてウラノスを倒したグレイス。

だが、結局それは新たな戦いの火種にしかならなかった。

 突如として、グゥという音が響き渡った。そういえば、お昼がまだだった。


「ま、まずはお昼を食べてから、今後の作戦会議に入りましょ!」


そういうアリスの腹の虫が一番鳴っていたのがおかしくて、ちょっと吹きだしてしまった。レイアは微笑みながら準備に取り掛かり始める。


「グレイス、お手伝い忘れないでくださいね」


「そういやそうだった。はーい」


私は、レイアの元に駆け寄り食事の準備をし始める。

食材を切り分けたり、水で洗ったりと当たり前のことをしているけど、この世界も調理は前いた世界とそんなに変わらないんだな......。自分が前いた世界で自炊していたことを思い出しているとキックスが物珍しそうにこちらを見つめていた。


「なに?」


「いや。私は王国にいた時、食事はすべて天使が魔法によって生み出していたものを食べていた。食事というものが、こんなにも時間がかかるものだと思っていなかった」


「そうなんだ......。逆に、私はずっとこれが当たり前だったからそんなこと知らなかった」


そうか、マトハル周辺が飢えに苦しんでいたのってもしかして「調理」そのものがわかっていないからってこと? それとも、天使に見限られて食事を与えられていない? どちらにせよ、そうとうマズい状態にあるかもしれない。


「よし、できました」


レイアの言葉と共に、人がぞろぞろと集まってくる。あっという間に野外の配給場には列ができた。

彼らにできた食事を分けていき、最後の一人になった後私たちも食事にありつく。


マリスが立ち尽くす中、私は一人切り株の上に座り食材を口にする。これがどんな味でどんな食材なのかすらわからない。ただ、口元でパリパリと砕けるような硬さのものが水といっしょに喉元に流れていくだけだった。首をかしげていると、キックスが隣に座り真剣な顔つきで地面を見つめていた。


「ウィナス、クノロス、セイネプトス......そしてルシエルの4体が最後に残った天使ということになるな。彼らは、今まで通りに行くような連中ではない。それでも戦う意思は変わらないか?」


どう転んでも、戦いは終わらない。私たちが大人しくしていても天使たちは攻め込んでくる。ウラノスの一件でそれがよく分かった。 やっぱり、自分の幸せのためには今は戦うしかない......。


「なにも行動せずにあいつらの栄養になるのは嫌かなぁ......。どうせ死ぬなら自由な幸せを掴みたい」


私は拳をギュッと握りしめると、マリスは私に近づいてきてはその拳を見つめた後私をその青い虚空のような瞳でとらえる。


『グレイス、お前の言う自由や幸せとはなんだ』


「あんたが知ってどうなんのよ」


『知らなければ、私はお前を殺せないだろ。なにがお前の幸せの絶頂と言えるのか知る必要がある』


「そうだなぁ......。やっぱり、一番はおいしいご飯を食べたい。できるならここにいるみんなで楽しい食事がしたい。それに、この世界の美しい景色を見て見たい。この目になってから色というものがなくなっちゃっからさ。いろんな景色を見て見たい。マリスもそう思ったことはない?」


『ないな。少なくとも私にとっては、恐怖を与えることは使命であり娯楽だ。他にはなにもない』


「他にやりたいこととかないのかよ」


『お前を殺すこと』


「いつもそればっかりだな。でも私が契約している限りは殺せない。なら、契約を解除するときはマリスの新たな幸せを見つけたときってことで」


『フン、無意味なことを......。そんなことせずとも、私はお前をすぐに殺しはしない』


マリスと話し込んでいると、レイアがマリスに近づいて彼に語り掛ける。


「でも、二人で会話されているときはとても幸せそうに見えますけどね。マリスさん、もしかしてグレイスに愛情が湧いたりしてるんじゃないですか?」


『そんなわけがあるか! 嘘を吐くならマシなことを言え』


「君たちは本当に変わっているな。こうやって悪魔と楽しく会話するだなんて......。私には到底無理だ」



キックスはマリスを見ようとするも、怖いのかすぐに目をそらす。それを見たマリスは、彼に執拗に話しかける。


『ほう。貴様、私が怖いのか? 久しぶりに私を怖がる人間がいて嬉しいぞ』


「おまえ、ほんと性格終わってんな」


私の冷ややかな言葉に、マリスは反応しこちらをにらみつけた後キックスから離れる。

その後、何事もなかったかのようにマリスは真面目な表情で語る。


『悪魔とはそういうものだ。貴様ら人間とは違う。 決して慣れあいや、共存などできない。もちろんする気もない。それは天使も同じなのだろう。現に、あちらから来ている用だぞ」


その言葉と同時にアリスとマルファスが、慌ててこちらに向かって来た。


「クノロスとウィナスが上空から大軍を率いてきたぞ。準備しろ」


「戦える人は私についてきて! 残りの人たちはいつも通り武器庫の地下へ急いで!」



二人の言葉に周りはピリつき始め、レイアも戦闘のできない人たちを避難誘導しに向かっていた。

レイアの方からサバトが私の元に駆けつけてくる。


「グレイス! 状況は?」


「どうもこうもないわよ。彼ら、かなり本気みたい」


ウィナスの手の動きで、クノロス達は地面に降り立ち整列し始める。

軍隊の構成としては、ざっと人間が数千人。オークが数万人といったところか......。


「人間たちは、元より天のもの! 体も、魂もそのすべてを天に還すことが人間最大の幸福である!その平和を君たち悪魔は革命軍と欺き、名乗り、歯向かって来た! これ以上、お前たちの蛮行を赦すわけにはいかない! 我ら、神聖天界警団は大天使ルシエルの名の元に平和のため大義と正義を貫く!」


ウィナスの言葉に、大勢の金の勇士の証を胸元に身に着け、王国軍の甲冑を装備したオークや人間たちが一斉に勇ましい声を上げる。そんな威勢のいいハッタリが私たちに通じるとでも思っているのだろうか。


「歯向かう? これ以上許さない? いつの話よ。私は、あんたたちが重い腰を上げる前からずっと戦い続けてきた! ここにいるみんなだって、必死に今が幸せになるように生きて戦い続けている! それを天使だろうがなんだろうが、赦しをもらう気なんてねえよ」



「ほんと、君は醜く抗うねぇ......。グレイス・アルマン。正義と愛こそがとても美しいのに」



先ほどの演説とは打って変わって、いつもの飄々とした語り口でうねうねと体をくねらせる。


「正義と愛で飯が食えるか」


「はぁ......。魔女を殺せ。手段は、君たちに委ねる」


ウィナスとクノロス率いる神聖天界警団と私たち革命軍の、おそらく最期の戦いが始まる。

風の天使ウィナス、そして時の天使クノロスが立ちはだかる中、戦いを続けるグレイス。

果たして、この戦いに終わりはあるのだろうか......。

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