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98:進むべき未来、踏み出すとき

希望が見え、身も心も軽くなったグレイス・アルマン。

だが、同時に自分の幸せのために動き出した歯車を進める責任を感じていた。

 体が軽くなったような気分だ。今までになく晴れやかな気分に私は自然と口角が上がっていた。

だけど、まだマリスと私の個人的な契約が残っているように、天使たちへの怒りは忘れていない。

私が家を追放されて、親を失い、家を失った。すべてはルシエルという天使によって仕組まれた運命だとわかっている今、彼に精算しないといけないことが山ほどある。


『戦うのだな、グレイス』


「ええ。私もルシエルには用があるし......。自分のやってきたことにけじめはつけなきゃ」


ここまで犠牲を出して、革命を焚きつけたのも私の責任だ。

今、私が戦わなくちゃ......。そして、天使に追われたり戦うことのない本当の自由と平和を手に入れる!


「それで、これからどうするのですか? 相手は黒魔術の使い手なのでしょう?」



レイアは最初に戻って、今一番戦うことになる天使クノロスとウラノスの話を始める。

だが、キックスは自身に満ち溢れた表情で彼女に語り掛ける。


「初めは不安だったが、今は確信できる。この反転魔術さえあれば我々は確実に彼らを倒せる! 問題は、誰が習得するかだな。ニーデンベルグともう一人、魔人がいたな。彼らの意見が聞きたい」


ニーデンベルグは魔導書を閉じて、口を開き始めた。


「俺でいいだろ。本も読めるし、間近で見ていたからな」


というと、アリスの影からマルファスが現れて、ニーデンベルグの顔面すれすれまで近づいてにらみつけるように話し始めた。


「なら、黒魔術を使う私と手合わせしつつ最終調整といこう」


「お前の意見に乗るは癪だが、いいだろう。マルファス、今度こそお前に泣きっ面かかせてやる」



そういうと、戦友のようになった二人は私たちの部屋を後にした。キックスはうまくいったと言わんばかりに小刻みにうなずく。だが、二人ばかりに背負わせるのも戦力が少なすぎる。


「なにか、私たちにもできることってないかな。黒魔術の対策」


「現状ないな。しいて言うなら、なにか食べて、寝て、英気を養っておけというしかない」


 ないなら仕方ないかと、ベッドに腰かけると、アリスの方から大きな音がなった。


「あ、あははは......。お腹すいちゃった」


「昼食にしましょうか。私、準備してきます」



レイアが外へ出たのを見て、私もついていくことにした。何もしていない今より気が紛れるだろう。

外は、今まで以上に晴れやかになっていた。ソルの街の野営地の方へ向かうレイアを止めて


「私も手伝わせて」


「味見は私がやりますからね」


「う、うん」



野営地の中央にある炊き出しへ向かうと、突然焚き木の周りが黒い球体に包まれ消えていった。

黒い球体は大きくなり、破裂したと思うとその中から黒く下に行くほど細くなっていく長い胴体。そしてそれに反して白く輝く頭と天使の輪があたりを照らした。さらに紅く輝く一つ目が群を抜いて恐ろしさを増していた......。


「ここが君たちのアジトだね。家畜のすみかにしては上出来だね。でも、くさいよ」


「ウラノス! お前どこから」


「ぼくは空間の黒魔術を司るウラノス。 位置さえわかればすぐにでも駆けつけられる......」


私は、ポシェットから次元鏡をとりだして戦闘態勢に入った。

レイアも腰につけていた細目の剣を抜刀する。


「先手必勝です!」


炎を纏わせたレイアの剣の軌道は、ウラノスに直撃するはずだった。だが、そこにはウラノスはすでにいなかった。どうやって移動したんだ?


「無駄だよ。僕には君たちが次にどこに行くのか、その位置がわかる。黒魔術のひとつ、ポジションプログラムでね」


そういうと、ウラノスは突如として私の方へと向かってきた。その手にはすでにハンマーのようなものが持たれていた。まずいと、防御用の土魔法を出そうとするももう遅い。


「ベヒモスハンマー! さらに黒魔術:ポジションプログラムを相手に使うと相手を特定の位置に吹っ飛ばすこともできる! こんな風に!」


衝撃が走った途端、私は宙に浮かんでいて真下には海が広がっていた。そして、私に引き寄せられるようにウラノスが私の元にやってきてハンマーを振り下ろした。


「うおおお! フェニックス、力を貸してくれ!」


ちょうど持っていたフェニックスの次元鏡を真下にかざすと、フェニックスがギリギリのところで私を背中に乗せてくれた。背中は案外熱くなく、足元で体毛のように炎が揺らめいていた。

 そのままウラノスのいる元へと飛んでいくものの、全然距離が縮まらない。


「くそ、当たれ! 当たれ!」


ポシェットから取り出した銃を乱発しても当たらず、空中戦をしてもキリがなかった。

フェニックスも初めて人を乗せて飛行していたからか、へばっているような表情を見せていた。


「無理させたね、とりあえず戻ろう。みんなのところまで頑張って」


レイアたちのいる野営地の地面擦れ擦れで私が降りたのを見ると、フェニックスが地面で倒れていく。それを見てすぐに次元鏡に戻した。ありがとう、今はゆっくり休んでくれ。次元鏡をぎゅっと握りしめた後、ポシェットに直すとマリスたちが外の騒動を聞いて駆けつけてきた。


『グレイス! これは一体どういうことだ』


「ウラノスが現れたの」


マリスは天空に羽ばたくウラノスを忌々しそうに見つめる。続いてニーデンベルグ、マルファス達も続々と駆け付けてきた。


「好都合だ。ニーデンベルグ、実践形式でいくぞ」


「マルファス、それは無茶がすぎないか?」


「アリスのためだ。おまえも彼女に恩を感じているなら働け」


「わかった。グレイス、おれたちが魔法を練っている間に時間を稼いくれ」


ニーデンベルグとマルファスの言葉を信じ、私は隣に立つマリスと目くばせをした。



反転黒魔術を習得したニーデンベルグの時間を稼ぐため

グレイスたちはウラノスに立ち向かう。

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