プロローグ
お試し
今この光景は現実なのか…。
どこにでもいる一般高校生小鳥遊碧人は
今テレビで話題になっている吸血鬼に
襲われそうになっている。目の前に
立ちはだかる吸血鬼、自然界の頂点。
人間が家畜に堕ちた瞬間を感じた。
この状況、脳では理解しても心は理解できない。
「……ぁ、ぁ…。た、たすけて…」
僕は必死に助けを求めたが
死の恐怖に声がまともに出ない。
それに、足もすくんで動けない。
僕は察した。ここで死ぬんだと…。
小鳥遊碧人16年の人生閉幕……。
僕は死を覚悟に目をつぶった。
肉の刺さる音が聞こえた。
突然自分の顔に何か生暖かいものを感じた。
…これは、誰かの血だ。
「えっ…?」
僕は咄嗟に目を開けた。
僕の目に映ったのは1人の女性が
吸血鬼の頭を跳ねるその瞬間だった。
ゴロゴロと、頭が転がる。
とてもグロテスクなそれは僕の脳裏に
嫌でも焼き付いてしまった。
「少年。怪我はないか?」
女性を見て僕が感じた第一印象は
美しい。この一言だった。決して
変態とかそういうものではない。
だが、誰が見てもそう感じさせられる美しさであった。
血まみれになった女性は高身長で、
白髪、まるで人形のよう……。
僕が女性を凝視していると、女性が
少し照れくさそうに
「そんなに私をジロジロ見るな。でもその様子からして怪我はなさそうだな。あとな夜に1人で出歩くなよ。危ないから。じゃ気をつけて帰れよ」と早口に言い残し僕の返事を聞く前に
暗闇に溶け込んで消えてしまった。
「白髪の天使…だな」
僕の中で天使として崇めることにした。