8. パパとママと私
こうして、ミワちゃんとminiたちと、ベテラン仲居こと一颯ミヤによる、パパ・ママ探索がはじまった。
「ミワたんのママ、ちりまちぇんか?」 「このお顔の方を探しています!」
ミワちゃんと一颯が聞き込みを続ける一方で、miniたちも思念をフル活用している。
「アロー! こちらミワ! 新人ハルミ部隊、応答願います! いま、どの辺ですか?」
「三階大浴場の休憩室……いや更衣室……いや、廊下の自販機前……」
「はっきりしてください!」
「無理です! 半狂乱かつ猛スピードであちこち駆け回っているので……!」
「mini文字でこちらの方向を示せませんか?」
mini文字とは、miniたちで形作るカタカナ、アルファベット、一部の記号による、人間との意志疎通法である。……しかし。
「試みてはいるのですが、全く注視してもらえず…… うわっ!」
それきり、新人部隊からの思念は途絶えた。
「ふっ……踏みつけられて気絶とは、まだまだ甘いな!」 小さく跳ねて不満を表す、©*@«と、 「新人ですから」 と宥めるº*≅¿。
「とにかく、こうなったら……」 「ですね」
©*@«とº*≅¿はふたり、息もピッタリに5回転ジャンプを決めて命令したのだった。
「「総員、点描アート全力維持……!!」」
..º*¿¤*§º*ゝ..
ハルミと和樹は、朝食の席でミワちゃんから目を離してしまったことを、非常に後悔していた。
……美味すぎる海苔や昆布の佃煮、なぜか添えられたコーンビーフと、観光予定に、ついつい夢中になって、大切な我が子を見失ってしまうだなんて……。
「うう……ミワちゃんに何かあったら、私…… うう…… 最低のママだよね、私ったら……」
「そんなことより、手分けして探そう!」
ハルミのためにもミワちゃんのためにも、強くならなければ。
そう決意して、キッパリと言い切る和樹に、ハルミもグスグスと鼻を鳴らしながら、うなずく。
「……そうだね! ……はやく、探してあげなきゃ!」
「そうだ! 頑張ろう!」
レストラン、トイレ、大浴場……
ミワちゃんの名を呼んでは駆け回る、和樹とハルミであったが……。
「いた?」 「……まだ、見つからなくて……ううっ……私なんて、私なんて……」 「大丈夫、頑張ろう!」
慌てすぎて、旅館のスタッフに協力を頼むことにも、足元のminiたちを踏みつけてしまったことにも、全く気づかないままである。
「はやく見つけてあげなきゃ……きっと泣いてるよ!」
「そうだ、こんどは俺、最上階へ行ってみる!」
「じゃあ、私はB29階へ!」
「うん、頼む!」
うなずきあって再び駆け出そうとした時。
「ママぁ……っ! パぁパぁ……っ!」
愛しい娘の声とともに、やわらかくてちっちゃな温もりがひとつと、その1/1000ほどちっちゃいヤツらの大群が、猛然とふたりにとびついてきたのだった。
「ミワちゃん……!」 「良かった……!」
「パパぁ……ママぁ……! もう! どこにいってたんでちゅか? ちゃがちたんでちゅよ!」
涙と笑いとちっちゃいヤツらにまみれながら、親子3人は抱き合って再会を喜ぶ。
「ごめん、ごめんね、ミワちゃん」
「こえかあは、ニンジンのこちてもおこあないでくだちゃいね!」
「うん、ミワちゃんが無事なら、なんでもいいよ、もう……」
「じゃあ、もう、新婚旅行はやめて、プリキュRショーにちゅえていってくだちゃい!」
「ああ、来月くらいに行こうね……!」
不安と緊張の反動か、両親に甘えまくってるミワちゃんを、一颯は微笑ましく眺める。そして。
「…………」 静かに一礼し、その場を去ったのであった。