7. 迷子ちゃんと宇宙ノミと私
「あのぉ……」
温泉旅館 『リゾート・ウラオモテ』 のベテラン仲居、一颯ミヤが、3歳位の女の子に声をかけられたのは、出立する客たちの見送りが一段落ついた頃であった。
「ミワたんのママとパパが、どこか行ったのでちゅ」
迷子か、と思う一颯。
まずは落ち着かせようと、身をかがめ、目線を合わせて丁寧に応対する。
「ミワさまでいらっしゃいますね? お姉ちゃんと1字違いですね。お姉ちゃんはミヤと申します」
「ちょうでちゅか。ミヤたんでちゅね」
……ミワちゃんは、めちゃくちゃ落ち着いていた。しかし、 『1字違い』 に反応する余裕はなかった。
miniたちの 「ガンバレ!」 というテレパシーに1つうなずき、すぅはぁ、と深呼吸をする。
「ママとパパ、まいごでちゅ。ちゃがちてくだちゃい」
「ママとパパのお名前、おわかりでしょうか?」
「えーと……ぉ、ハルたんと、かずたんでちゅ!」
ちっちゃいヤツらがその頭の上で 「よくやった!」 と思念を送っているのには全く気づかず、しっかりした子ね、と微笑む一颯である。
ミワちゃんを受付カウンター内に案内して、もう一度身をかがめ、目線をあわせて優しく告げた。
「こちらで、お待ちくださいね」
顧客名簿でそれらしい夫婦を探し、部屋に内線をかける。
ここまでは、スムーズだったのだが……
ツー、ツー、ツー、ツー、ツー……
いつまで経っても、電話がとられる気配はない。
もしかしたら、この子を探しまわっているのかもしれない…… そう考え、一颯は笑顔をつくった。
「少しお待ちいただけますか? おそらく、もうすぐこちらにいらっしゃいますよ」
「いつでちゅか? なんじかんご?」
「ええ、すぐですよ、きっと」
「うっ……!」 ベソをかく、ミワちゃん。
miniたちのおかげで今までなんとか平静をたもっていたのが、ここにきて、一気に不安になってしまったのだ。
「ママだって、いつも、『ちゅぐだかあ、まってね』 っていうのに、ちっともちゅぐじゃ、ないんでちゅぅぅぅ!」
ポロポロと涙が、ぷみぷみの頬にこぼれ落ちる……!
「うううっ……!」
「わかりました」
一颯はついに、決意した。
この格式高い 『リゾート・ウラオモテ』 のエントランスに、子供の泣き声を響かせるわけには、いかぬのだ。
「では、一緒に探しにいきましょう!」
「はい! あいがとでちゅ!」
……涙を拭いて笑顔を見せるミワちゃんに、ホッとする一颯である。
「じゃあ、このかおのママをちゃがちてくだちゃい!」
「え? どの顔?」
首をかしげる一颯の前で、無数の点々がピョンピョンと跳ねつつ動き出す……!
「ひっ……な、な、なにコレなんなのっ!?」
「大丈夫でちゅ! こわくないでちゅ! かゆくもいたくも、ないでちゅよ」
ひきつる一颯に、天使のごとき笑顔を見せるミワちゃん。
今、エントランスのカーペットの上には、miniたちによる、写真のごとく精密な点描アートが出来上がっていた。
「ママでちゅ! ちゃがちてくだちゃい!」
朗らかに言うミワちゃんにひとつうなずき 「かしこまりました」 と先に立つ、一颯。
一颯とミワちゃんに合わせて、見事な点描アートのママの顔もピョンピョンと移動していくが……
ベテラン仲居たるもの、この程度の恐怖で、泣くわけにはいかない。
5/15 誤字訂正しました! 報告くださった方、どうもありがとうございます!