6. 貧血と宇宙ノミと私
「おじたん! どうちたの!?」
「………………」
「おじたん! だいじょうぶっ?」
急に倒れた男を、ミワちゃんは慌ててゆすぶる。彼がアブない変態男だとは、知る由もないのだ。
「安心せい……!」
厳かに告げる、©*@«。
「ただの貧血じゃ……!」
「いんけつ?」
考え込むミワちゃんである。
(……よくわからないけど……おちりのびょうきかなぁ……?)
『ただの』 とつくからには多分、大丈夫なのだろう。
「なぁんだ!」
ひとまずは、ほっとしたミワちゃんであるが。
「ママぁ、おじたん、大丈夫でちゅって!」
ほっとついでに、ニコニコと周囲を見回して、はじめて……。
ここがどこだか、わからないことに気づいてしまった。
高級温泉旅館 『リゾート・ウラオモテ』 は、大人でも迷うほどに広いのだ。
「ママぁ……! パパぁ……! どうちて、いないの?」
それは、ミワちゃんが勝手に離れていったからだ……だが。
ミワちゃんにとってパパ・ママは、ネコにとってのノミのごとく、己にくっついてきて当然の存在だったのである……!
「ぅえっ……ぇっ……パパぁ……」
ミワちゃんの涙腺が緩むのに、0.1秒もかからなかった。
「ママあ!! ぅ……ぅ……ぅわぁぁぁあぁんっ!」
慌てたのはminiたちだ。
「ちょっと泣いちゃいましたよ……! どどどどうしましょう?」
「落ち着け……! そうだ、アレを披露しよう!」
「……アレですか!?」 「うむ!」 「さすが©*@«さま!」 「いやいや!」 「いえいえ!」
……そんなワケで、©*@«とº*≅¿は、思念の出力を最大にして、歌い、躍りだした。部下のminiたちも、それに続く。
曲は、モーツァルトの 『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』 より抜粋・編曲。情操教育にもモチロン最適だ。
「miniは♪」 「miniは♪」
「ノミじゃない♪」 「ノミじゃない♪」
「miniは♪」 「miniは♪」
「こわくない♪」 「かゆくもない♪」
…………
ミワちゃんは泣き止み、キョトンとした顔をした。
「あえ? こえ、ちってる!」
踊るちっちゃいヤツらは、初めて見るはずなのに、どこか懐かしい…… そんな思いである。
…… そうだ。
ミワちゃんがホヤホヤの新生児だった頃に、miniたちは総員交代で、ミワちゃんの可能性いっぱいの脳ミソに、mini教育を施した。
そのために、ミワちゃんは成長しても、miniたちのテレパシーを受信できるようになったのだ……!
ここで、泣き止んで一緒に歌い出すほどの懐かしさを彼女が覚えたとしても、それは当然、といえた。
「さぁ、一緒に♪」 「さぁ一緒に♪」
「「ママをさがそぉーーー♪」」
「はいでちゅ!」
ミワちゃんは、涙をふいて元気よく立ち上がったのだった。