5. ヘンタイと宇宙ノミと私
「おじたん、だあれ?」
ミワちゃんは、声をかけてきた知らないおじちゃんをじっと見た。
普段からママに 「知らない人から話しかけられたら逃げなさい」 と教えられているが…… ミワちゃんのこれまで3年の人生では、知らない人は大体、親切だった。
おじちゃんの顔面にも、ニコニコと穏やかそうな笑みが浮かんでいる。
「おじちゃんはねえ、やさしい、いいおじちゃんなんだよ」
「ちょうでちゅか」
自分のことを 『優しい良い人』 と言い切る人間など怪しさ満載であるが、ミワちゃんは、それを信じた。
――― これまで3年間の人生で、ミワちゃんがいちばん怖かったのは、実は、トイレトレーニングがうまくいかなかった時に 「私なんてどーせダメママで……」 と暗く落ち込むママであって、他人のおじちゃんではなかったのだ……。
「みわたんはねえ、テレビのおへやを、ちゃがちてるの。プリキュR、みうの」
「なら、おじちゃんのおへやにテレビがあるよ! いっしょにプリキュR見ようか」
「やったでちゅ……! みうでちゅ!」
喜ぶミワちゃん。その脳には、©*@«とº*≅¿の 「ダメだ!」 「ダメですよ!」 という悲痛な思念はもはや、届いていなかった……。
..º*¿¤*§º*ゝ..
「まてまてまて!」 「待ってください!」
見知らぬ男についていく、ミワちゃんの頭の上では、©*@«とº*≅¿が激しく宙返りを披露していた。
「そのオッサン今、脳内で 『ゲヘヘ(笑)』 って言ったぞ!」
「言いましたよ! 『みわたん、プリキュRに変身して、おじたんをお仕置きちておくれ』 とか言ってますよ! そんなの私が代わりにされたい!」
「しかもこやつ、今 『偉大なる¤*≅¶《パンチラ》写真を』 とか言いおったぞ……!?」
「実は反対派miniがオッサンに化けているのかもしれませんね!」
「うむ……! 危険だな……!」
「はっ……さようで!」
……しかし、プリキュRで頭がいっぱいになったミワちゃんには、やはり、彼らの思念は聞こえておらず。
「「ええい、こーなったら……!」」
©*@«とº*≅¿は目を見合せてうなずき、男に跳びうつった。
高く跳びはね、旅館内に潜む部下たちに指令をくだす。
「「 総 攻 撃 !! 」」
――― 次の瞬間。
……「「「「ラジャーッ!!!」」」」……
どこからともなく、ちっちゃいヤツらが一斉に、男に襲いかかった!
「「秘技! 痛くないけど吸っちゃうぞっ♡」」
ぐらり、と男の身体が傾き。
数秒後。
……どたん! と人が倒れる鈍い音が、旅館の広い廊下に響いたのだった。