4. 旅と修行と私
かくして、ウラオモテ・リゾートに遅めの新婚旅行に出掛けた、和樹・ハルミ・ミワちゃんファミリー。
しかし。
「ちゅまんないの……」
正直なところ、1日目で飽きてしまった、ミワちゃん3歳である。
朝早くに起こされて、空港へ行くあたりまでは雰囲気に呑まれてワクワクしていたが、その後はひたすら、退屈であった。
飛行機の中では寝てしまい、ウラオモテ・リゾートに着いた後は、トレッキングとやらで森の中をひたすら歩かされた。
途中に興味を惹くものがあっても、立ち止まって遊んでいると、パパやママから 「早く行こうね」 と言われてしまう。
最終的には歩くのが嫌になって、おんぶされてそのまま寝てしまった。
目が覚めたら旅館で、ママと温泉に入ったのはちょっと楽しかったけれど。
「ママぁ…… もう、でようよぉ」
「ええー……もうちょっと……」
ママ、風呂、長過ぎ。そのくせ。
「走っちゃダメでしょ。お湯をそんなにバシャバシャしないの!」 と、小言ばかり、多すぎ。
その後の食事も、ママとパパは 「美味しい! 最高!」 と喜んでいたが、ミワちゃんにとっては、ママの手作りカレーの方が、よほど美味しい。
そして、翌朝も、朝から温泉。次に、3歳児にはなんだかパッとしない、和風朝食・特産島ニンジンの浅漬け付。
さらには、
「今日は午前中はカヌー、午後からはクルーズだぞ!」 「マングローブの森が見られるんだね!」
と、またしても楽しいのは大人だけっぽい1日の行程。
ミワちゃんは、森よりもプリキュRショーが見たい。
「……新婚旅行っていうのは、修行なんでちゅね……」
ふぅっ……、と人知れずアンニュイなタメイキをつくミワちゃんである。
「ちょうだ。テレビのおへやにいくでちゅ」
確か、大きいお風呂のそばの、大人たちがゴロゴロと転がっている部屋にはテレビがあった。
そして、パパがお休みの日の朝は、プリキュRが放送されているはずなのだ。
――― こうしてミワちゃんは、朝食の席を密かに離れ、大浴場の休憩室を目指して歩き始めたのであった。
慌てたのは、昨晩からハルミと和樹に寄生し、一家を見守っていた©*@«とº*≅¿である。
「こ、これは……止めなければ!」
「どんどん行っちゃいますよ!」
「えーーい! こうなったら……っ!」
「ですね!」
ふたりは顔を見合せてうなずくと、息もピッタリに大きくジャンプし、ミワちゃんに乗り移った。
「ハルミと和樹は、新人たちに任せよう!」
「もう連絡しました!」
「さすがだな、º*≅¿くん!」
「いえいえ!」 「いやいや!」
いつものやり取りまでもがどこか緊迫している、ふたりの思念を受け取ったかのように。
「あーとー。『イエイ!』 と 『イヤイヤ!』 のえのほう、でちゅか……? あ、これでちゅね!」
思いっきり、大浴場休憩室へのコースから離れてしまう、ミワちゃん。
「ちがうちがう!」 「あーもう! 右ですよ!」
「えーとー…… こっち…… でちゅか?」
©*@«とº*≅¿が必死で声援を送るほどに、ミワちゃんは道に迷ってしまうのである……!
必死すぎて、自分たちの思念がミワちゃんに届いていることにすら気づいていない彼らは、次の瞬間、さらなるパニックに陥った。
「おじょうちゃん、迷子かい?」
全く知らない男が、ミワちゃんに声をかけてきたのだ。