3. プリンセスと福引きと私
さて、なぜ、ハルミと和樹、そしてミワちゃんのファミリーが、ここ裏表島のリゾートでホームドラマを繰り広げているか、といえば。
――― それは、1ヵ月程前の出来事だった。
「あっ! プリキュRだぁっ!」
家族でショッピングモールに出掛けた先で、ミワちゃんが目にしたのは、大好きな人気アニメ 『プリンセス・キューティー・R』 のキャラクターがプリントされたポケットティッシュだった。
福引きの、景品である。
「ミワたん、こえほしいの!」
「今はダメだよ」 ハルミがたしなめた。
福引きをするにはショッピングモールで、あと3000円分の買い物が必要であり……
「そんなに買う物、ないからね」
「いやぁ! ほちいの! ねぇ、パパぁ……」
「ダメだよ。ママが困るからね」 和樹もまた、優しく言い聞かせたのだが……
「うっ……ぅぅっ」 自分を見上げる、つぶらな瞳に、みるみるうちに涙が盛り上がるのを、無視はしがたかった。
盛り上がった涙が、プニプニとした頬にホロリとこぼれる。
「み、みわたん……なかないの。がまん、すうの……」
パパは撃沈した。
「ハルちゃん! 前に、ここの回転寿司が食べたい、って言ってたよね? 行こう!」
「……給料日前」
「俺の小遣いから、半分出すから……!」
ママも、撃沈した。
かくして、3人は仲良く3000円分の寿司を食べ、ゲットした券を持って、福引きに挑んだ。
狙うはもちろん残念賞。
『プリンセス・キューティー・R』 のイラスト付きポケットティッシュである……!
ところが。
カランカランカランカランカラン!
澄んだ鐘の音とともに告げられたのは。
「特賞! ウラオモテ・リゾート2泊3日の旅ペアチケット~! ただし下記の繁忙時はご遠慮ください!」
「それ、意味ないじゃん……?」 とハルミはツッコミを入れ。
「プリキュRはぁ……?」 とミワちゃんはまた、瞳に涙を盛り上げ。
「行こう! 休みを取るよ!」 と、和樹はキッパリ言ったのであった。
「ほら、俺たち、新婚旅行もまだだったし……な?」
そう。結婚後すぐにミワちゃんがハルミのお腹に宿ったため、彼らは新婚旅行する暇もなく、子育てに明け暮れることになったのである。
「……気になってたんだ、ずっと……」
「和樹ちゃん……そんなこと……!」
ハルミもまた、瞳を潤ませた。
「新婚旅行なんて……。私は、和樹ちゃんとミワちゃんがいれば、それで幸せだよ……?」
「ハルちゃん……!」
「和樹ちゃん……!」
見つめ合うリア充夫婦ふたりは、周りにいつの間にかできていた垣根から、温かな拍手をもらうこととなったのであった。
そして。
「ぅ…… プリキュR…… ぅっ…… ぅぇ……」 と泣きかけたミワちゃんには。
「あら、あなた、これがほしいの? じゃあ、おばあちゃんのをあげるね」
親切な知らないおばあちゃんを皮切りに。
「おじちゃんもあげるよ」 「おばちゃんも」 「ぼ、ぼくも……(ぽっ)」
多くの知らない人から、残念賞のティッシュがプレゼントされ、ミワちゃんは一気に、プリキュRプリントティッシュ長者となったのである……!
……つまり。
その日は、ハルミたち家族にとって、実に良き日だったのだ。