2. 部屋と宇宙ノミと家族
『いまこそ♪ 飛び立つ♪ この宇宙へ~♪』
高級旅館 『リゾート・ウラオモテ』 の一角。職場内保育園として設けられた部屋からは、すでにアニキなメロディが流れてきていた。
大慌てで、襖の隙間から、宇宙空間を渡れるほどの跳躍力を駆使して飛び込む。
昔懐かしい星の光に満ちた、アニメの宇宙空間を前に…… ©*@«とº*≅¿は、ほっと顔を見合わせた。
「間に合いましたね、©*@«様!」
「うむ、これもº*≅¿くんのおかげだ!」
「いやいや……」 「いえいえ……」
お決まりのやり取りを繰り返しつつ、じっとアニメに見入る、ふたり。
彼らは今、土曜日は午後5時半から放送中の大人気アニメ 『宇宙ブラザーズ』 にハマっているのである!
「いけっ……!」
「ああっ、危ない……!」
「ううむ……この弟の苦悶の表情……美味しすぎる……」
「ドSですね、©*@«様」
「いやいや、キミだって好きだろう?」
「ええ、弟の方……感情移入してしまいますな……」
などと会話を交わし、駆け付けた兄によってピンチを切り抜けるさまをドキドキしつつ鑑賞。
光り輝く薔薇がキラキラと舞う最終合体奥義まで、しっかりと堪能した後。
「今日も最高だったな……」 「最高でしたね……」
しみじみと余韻を楽しみながら、温泉旅館ウラオモテ・リゾートの本館へピョンピョンと移動する、©*@«とº*≅¿である。
次は、本館の大浴場休憩室に設置されているテレビにて、昼ドラ枠から土曜日夜8時半に移動された 『家政婦は床』 を視聴する。
これが、彼らの毎週土曜日の習慣なのだ。
しかし。
いつものように、時々すれ違う人の血を吸いつつ、のんびりと向かったその先で。
彼らは、予想外の再会を果たしたのであった。
「は、ハルミ……っ!?」 「和樹……ですね……っ!?」
では、ハルミと和樹にまとわりついている、3歳くらいの女の子は。
「「ミワちゃん……っ!?」」
柔らかそうな、さらさらキューティクルの髪。長い睫毛と、ふくふくの頬。
©*@«《ピンハネ》たちが、旅立ったばかりの頃にはまだ生後3ヵ月の赤子だった彼女は…… 今や、小さな淑女へと成長していたのである……!
「「か……かわいい……なぁっ!」」
手をとり合ってジャンプする、©*@«《ピンハネ》とº*≅¿。
もし、彼らに涙を流す機能があったならば、きっと、着込んでいる卵殻スーツがふやけるほどに、泣いていたに違いない。
――― そして、そんなminiたちの目の前では。
「パパぁ! いま、みわたんのこと、かわいい、っていったでちゅね?」
「はは……ミワちゃんはかわいいからなぁ。ママにそっくりだし♡」
「あら♡ 鼻はパパ似よ♡」
…… ©*@«《ピンハネ》とº*≅¿にとっては、 『家政婦は床』 よりも貴重なホームドラマが、ひとしきり繰り広げられたのだった……。