第8話 グラン王立学校
「お祖父様お祖母様、お世話になりました。寄宿舎に向かいます」
「うむ、ここ1ヶ月で見てきたからお前のことは心配いらない、しかし、何かあったら何でも相談しなさい」
「休日には遊びに来なさい、いつでも待ってるわよ」
「わかりました」
イリヤと連れだって学校の寄宿舎へ、執事が馬車をというのを断って歩く。荷物は先週に使用人が運び入れイリアの監督で整えてあった。
春らしい穏やかな陽気で桜並木の通りを下ると、貴族街の南西端の寄宿舎と校舎が見えてくる。広大な鍛錬グラウンドは攻撃魔法でも使える大きさで魔道具による結界が張られる仕様になっているそうだ。
徒歩30分なら近い。東端からだと1時間ぐらいかかりそうだ。
「宿舎は広いのですよ、初等中等高等で男女に分かれた6棟がございます。伯爵様公爵様の子女はメイド付きの個室ですが、それ以外は2人部屋か4人部屋に共有の食堂やバスシャワールームらしいですわ」
「ボクはそこでも良いけどなあ、お祖父様のアレか」
「ルグラ伯爵家の名をおろそかにはできませんわ」
「お祖父様のお眼鏡にかなわなかったら追い返されたかもってところか」
「うふふ」
イリヤは成人式後採用の3年目、花嫁修業でもあることを聞いた。
冒険者や兵士も官人も男女差は無いようだが、女性は家庭に入り子供を育てるというのが一般的。貴族街のメイドは嫁入りの引く手あまただが、あまりにも好条件なので行き遅れることもあり、ヘルンの3人はその口かも知れない。
人族の国々は標高が高くなければ比較的温暖な気候で、貴族も腕や脚を出すのはマナー違反でなく、半袖シャツに女性も丈の短いすらっとした服だ。メイド服も同じくで、強いて言えばエプロンが目立つぐらい。装飾品も質素だ。
男性貴族の持ち物で特徴的なのは護身用短剣、ボクも義父からプレゼントされたものをベルトにつけている。タクトも鞘に装着して持ち歩く。
空気は適度に湿り、大山岳地帯に雨雪を落とす。30エタ級にもなると万年雪、大河も4本、大湖は3ヶ所で大小の沼があちこちに散在して林や農地を潤す。砂漠はデリン国に少しあるぐらいだ。
王都の物価はヘルンと異なり、魔物肉は超高級品で10倍はする。魔石は3倍、一般雑貨は3分の1、農産物は同じぐらい、街でいろいろと調べた。
通貨単位やコインは世界共通でギニ、銅貨が日本円で5円ぐらい、百ギニが銀貨で1万ギニが金貨、百万ギニが百金貨、硬貨は銅が青銅、銀が白銅、金が黄銅で資産価値はない。百金貨は銅と金の合金でちょっとお高い。10ギニの大銅貨や1千ギニの大銀貨も流通。冒険者・商業・工業の各ギルドか国民・貴族の保証カードで口座の魔道具決済が普及。商取引は魔木紙の手形決済が一般的だ。
制服や運動服、上に羽織る業服は仕立屋であつらえてあり、見栄を張るなら服地で差別化、かまわないのであれば古着屋で調達することも可能だ。
門番に挨拶して寄宿舎の事務室へ、寮母長が執務室に招き挨拶、ソファーを薦めメイドがお茶をサーブ。担当が入寮および入学手続きを済ませる。
「エフラ殿はイーガ伯爵家のご出身と聞いたが」
「はい、夫と死別し子も居なかったため義弟にマルク家を継がせましたから」
「イーガ領はエルフとも交易しておるのでしょう?」
「山間ですが良いルートがあり、かれこれ5百年ほどは続いております」
「エルフ独自の回復薬を主としているようですが、レシピは公開されているのでしょうか」
「基本的には一般的なレシピに効果を高める薬効成分が配合されているようです。それについては教えてくれませんね」
「その薬効成分も交易している?」
「はい、回復薬以外でも薬の効果を高める作用があります。研究者は生体の魔素反応性を上げているのではないかと考えていますよ」
「魔素反応性ですか、では魔素量や魔力量など、もしくは生体のバイタル量を数値化する魔道具があれば研究に役立ちますか・・・」
「血液による認証魔道具は魔力パターンを使っていると聞いたことがあります」
「なるほど・・・」
「魔道具にご興味があるのでしょうか?」
「ええ、魔法に興味があるのです、お調べになっているかと思いますがわたしは魔法の無い世界からの転生者ですからね」
「本当に魔法が無い世界があるんでしょうか」
「魔法は便利ですが功罪もあります。2百年ほどあまり活用出来ない転生者だったと聞いています。前世ではその間、科学領域で驚くべき発展を遂げ陸地面積は2割ほど多いのですが世界人口は70億を突破しています」
「70億ですか・・・なんとまあ」
「良いことばかりではありません、ゴミや毒をまき散らして環境を変えてしまってこのままいけば数百年で居住できなくなるのではないかと危惧されています」
「・・・そんな短期間で」
「こちらの世界では魔法があり極めて効率的なエコロジー社会です」
「エコロジー?」
「省力的と翻訳すれば良いかな・・・わたしは科学の力も駆使してさらに便利な魔道具を生み出せるのではないかと考えているんです。そのために魔法を学びたいと・・・」
「望みは承りました、学長とも?」
「この後に面会を予約しております」
「それは良かった。生活に関してはお付きの方に説明済みです」
「それはありがとうございました。よろしくお願いします」
「こちらこそですわ」
午前中に学舎の学長室で面談、学習成績と魔法学習希望を伝えてあったので、魔法科のトップ2人も同席、魔道師と魔道具師の老教授だ。同じような話をしたら感銘を受けたらしい、さらに魔法発動の疑問をぶつけると困惑した魔導師に対して、魔道具師のエンヤ・デス・パラトが言った。
「興味深いですナ。魔道具は魔法の仕組みを実現する魔動回路が基本、魔法の理解に繋がるかも知れませぬナ」
「なるほど、魔力がなくても使える魔道具ならその理論を学びやすいですね」
「それでは共通座学と武技訓練、魔道具の座学と実践というカリキュラムを組みましょうか」
「よろしくお願いします。もし魔法が使えるようになったら、魔法関係の学習もしたいと思います」
「ケン殿は熱心ですなあ」
「時間があれば科学についてもお聞きしたいが」
「そうですね・・・化学反応についてお話ししましょうか、簡単な実験も含めて」
「ほう・・・」