第4話 魔法って?
「母上、ファラもジュンも可愛いですね」
「うふふ、そうね、幸せだわ、ケン、今日は鍛錬日?」
「はい、あ、急がなくちゃ」
「怪我しないようにね」
「わかってます」
約3年経過しボクも12歳だ。
義母は女の子と男の子を産み、メイドはアウラさんとギルマさんにロッテリさんが加わって家庭は賑やかになっている。
ボクは会話も読み書きもマスター、前世界のことは折に触れて聞かれるけどあまり理解されない。聞く方も転生者は記憶障害があるからとかえって慰めてくれるほどだ。ここ2百年の転生者は30数名居るらしい。
ボクはこちらの知識も増えて、前世の知識と対比する方法を編み出した。
前世の記憶を持つ性格破綻のオレを別人格の『キモオタ先生』と名前をつけて対話する感じだ。
『キモオタ先生』が憎悪を口走るときはシャットアウト。ボクが美少年なのが気に入らないらしいし、ボクが女性と話すときにはなんとも言えず嫌な波動を出してくるので聖水をかけて瞬殺する。
ボクはケン・ミカミ・ルグラとしてちゃんとした少年貴族に生まれ変わった。
毎年召喚の儀で十数名がヘルンに来る。虐待をうけていたり食べ物をろくに与えられていなかったりした子供達だ。人材が必要なヘルンではすぐに養子縁組が決まり、大切に育てられているのですぐ馴染む。ただ、身分差には敏感、ボクに対する大人の扱いをすぐに察して距離を置くのも仕方が無いことだ。
商店や各ギルドの支店も出店、森林開拓で農地が広がり、家畜はアヒルや馬・羊・豚・牛、牧羊犬も飼われている。船猫はネズミなどの害獣駆除に活躍している。
人手が足らず早熟にならざるを得ない。ボクは計算能力を活かして養父の仕事も手伝って喜ばれている。
学校の生物図鑑で有用植物や毒草をしっかりと覚え、採取隊のお手伝いも期待されている方だ。狼や虎や猪や熊、蛇やトカゲより魔物はさらに獰猛で強い。質が悪いのは猛毒持ちや魔法を操る魔物だ。
西域の特異点ダンジョンの探索でも魔石や魔結晶、魔鉱石は採取されるが、素材になる魔木や魔草、魔物本体は未開の大森林に最も多い。
山岳地帯を越える必要が無いヘルンは未開の大森林の最前線であるため探索に有利で結果も得られている。人口は約3千人まで増え、砦城塞の兵士は1百人弱で滞在の冒険者が2百人強になっていた。
初等魔法書は読み込んで詠唱をすぐに覚えたのに、実践は年下の子達が早い。
ボクは魔法の才能が無いのかと焦っていた。
「ケン、何ボーとしてる」
「わ、すまない」
「しっかり腰を据えて振るんだ」
「はい」
ボクは運動神経抜群。貴族のたしなみとして体術や剣術、弓術は必須でフォナの日に行われる兵士の訓練日に副兵士長のヤリスさんから基礎を学ぶ。場所は独身兵舎の裏手にある訓練場。冒険者ギルドも裏手は訓練場になっている。
現在は約80セタ約8デサ(128cm・32kg)、成人男子100~120セタに15~25デサ程度、女子のほうが小柄で、男はたくましく女はたおやかというのが良いとされている。
「よし、そこまで」
「ふう~」
「振りが鋭いし才能があるんじゃ無いかな」
「本当ですか?」
「体術も覚えがいい、体も柔らかいしな、ケンは頭が良いから文官を目指すだろうが、体は鍛えれば鍛えただけ男らしくなるから続けた方が良いぞ」
「冒険者も興味あるんだけどなあ」
「ん~まあ、レベルが高ければ儲かるらしいけどな、特にここではよく聞くな」
「冒険者ギルドも早い内にできて登録も増えてるよね」
「まあなあ、厄介者も増えてるし、海賊の話も聞くな」
「護衛の仕事もあるんだ?」
「らしいけど、本命は魔物討伐か探索だ、鉱山でも見つけたら一挙に大金持ちさ」
「ヤリスさんもまた冒険者に?」
「いや、年だし女房子供もできて安定してないと・・・」
「う~」
「ま、ケンはこれからだ、成人になってから決めれば良いさ」
冒険者の中には魔道士もちらほら。魔法を使う魔物対策で、魔法防御の結界や怪我や毒や麻痺などの状態異常治癒、メンバーの生存率がかなり違うらしい。
教会の治癒士はさらに特化した魔道士、薬の知識も豊富で製造した回復薬は冒険者ギルドで販売している。魔法も鍛錬あるいは使用すればするほどレベルがアップして洗練すると言われている。
ただし、この世界ではゲームのようなステータス的な表示方法はない。数値化されず、あくまでも相対評価のランクだ。
神の放置プレイかよと『キモオタ先生』、魔法が使えないダメな奴という闇の声には脳内聖剣を突き刺し瞬殺している。そのうち消えれば良いのにと思う。
「さて、次は弓の訓練だ」
「はい、お願いするよ」
「うんうん、ケンは礼儀正しいなあ」
ボクは知識を蓄え観察して気がついた。前世の石炭や石油にかわる便利な魔法の功罪、転生者が小出しした知識でも産業革命前レベル、開発されてから進歩の無い馬車の乗り心地は最悪だ。
近傍で火成岩や堆積地層は観察出来た。白い砂は波にもまれて砕かれ丸くなった珊瑚や河川から押し流された細かな丸石。そういった事が記述された本はジャン先生曰わく王都にも無く系統だった学問が発展していない。
ジャン先生は魔法の先生でもあり、手ほどきを受けている。初等魔法書に魔法の元は魔素、水金地火木その他の属性があり組み合わせることにより多くのことができるとある。理論的に納得出来ないし、それ以上説明して貰えなかった。
例えば水魔法では何も無いところから水を生成、あるいは濁った水から不純物を除く等、洗浄魔法も水魔法の一種と聞かされた。確かに水魔法を掛けられると水気を感じた。水魔法は河川や湖、井戸、海の近くでは上手くいき、砂漠のようなところでは使いにくいと説明された。
そういうことを考え合わせると水を転送魔法で持ってくる?砂漠だと地下から転送しにくいのか?錬金術で水を作る?不純物を外に転送させる?重力操作で飛ばすとか、洗浄魔法は水に汚れを溶かすのか?等々の疑問がわくが質問しても明確な答えがこない。
火魔法は物が燃えるのでは無く熱なのではないかとか?
ちなみに、魔法を使うときに使う木の棒はタクトという初歩的な魔道具、魔木の棒で魔木は魔素を通しやすく凝集する働きがあるそうだ。魔石は魔素が石に凝集された物で魔素源になる。魔結晶は魔物から得られる魔石よりも多くの魔素が凝集されたもので、動物系魔物の核として体内にあり、それを取り出すのは冒険者には必須の手技になっている。ダンジョンでは魔物が消え魔石や魔結晶が残され、希にドロップアイテムも残されるらしいが・・・。
あれこれ考えてもなかなか素直に納得出来ない。魔力や魔素を感じ取れないのではないかとジャック先生には言われた。そう、魔力を練るとか体内の魔力をイメージするとかできないと魔法は発動しないらしい。日々悩んでいる。