第16話 初デート
「王都の近くにダンジョンがあるのか」
夏休みはあと10日。学舎図書館でダンジョンについて調べた。
大航海時代の測量技術は転生者がもたらしたらしい。大山岳地帯の北東に空白地帯はあるが海岸線は測量船により正確に地図化されている。
冒険家が寒くない結界魔道具と寒さに強い魔獣を調教したソリで極地点到達走破して調査。北極も南極も群島の杭が穿たれた氷の世界、海底の冷海水と温かい赤道で潮流が発生している。正確な地図に特異点をプロットしたり、緯度と経度を考慮したり、計算してみるとなんとなく違和感がある。
「穴あき?」
規則性がありそうでなさそう、その他、不正確な古地図に世界樹の場所や魔神情報、大山岳地帯の危険地域情報など気になる点もある。類推でプロットし、東域について考えているところに、父からの手紙が届いた。
「へえ、遺跡発見か・・・3ヶ所も?」
場所をプロット、線で結んだりしていると大変なことに気がついた。
「規則性がありそうだぞ」
類推でまだ見つかって居なさそうなヘルン山脈に目をつけた。
「ここに遺跡か何かがあったら面白いな」
グラポートからの方が近い北の場所と、ヘルンからも行ける場所について、資料も添えて父へ手紙を書いた。
グランのダンジョンはみんな行ったことがあると聞いてガクッとした。
「聞いてないぞ」
「言ってないもん、忘れてたもんね」
「結構前だよ、いきなり迷宮だから初心者は3層だけ解放されて、その下は冒険者向けで、最深到達は18層だって」
「初心者のは罠の場所もここですよみたいな案内人がいて」
「観光地化してるの、半日で終わるし」
「お上りさんには珍しいよねって言われた」
「そうか・・・」
「行ってみる?」
「うう、一応」
ラベルの他は1回で懲りたらしくパス。
乗合馬車で移動して軽装備でお弁当を持って潜った。
各階層にトイレ結界とかあって、完全に遊園地のアトラクションの乗りだ。
まあ、それなりに面白かった。
ラベルはエドガとつきあっているのかと思って聞いたら、只の幼なじみだと慌てて否定していた。
「う~む、夏休みもあと1週間か、宿題も無いし」
「ねえねえ、ケン君、背が伸びてる?」
「ああ、少し、そういえば前はラベルの方が高かったかな」
「すぐ追い抜かれそうね」
「ま、背の高さで人格が決まる物でも無いし」
「ケン君って変わってる」
「そうかな」
前世に帰れるアテも無く、この体はまったくの他人だ。魔法について考えることが多くまったく思い出さない。それだけこっちの生活に慣れたのだろう。
「ねえねえ、デートだし、良い店を見つけたの」
「あ、ああ、ケーキか?」
「新しい魔道具屋さん」
「そうか、このところはあまり行ってないな」
「でしょ~」
そこは行ったことのない店だった。
「ここ、庶民向けで安いのよ」
「ほう・・・」
「いらっしゃいませ、どんな物をお探しですか」
「いや、特に・・・」
「こちらなど今評判のライトなんですよ」
「あ!」
「どうしたの?」
「オレの・・・いや、ゼオス先生の作品」
「よくご存じですね」
「指導して貰っているからだ」
「あ、生徒さんでしたか・・・」
「コレ買って実家に送ったのよ」
「そうか・・・」
大銀貨2枚、安いのか?一生使えるなら安いか。他にも簡易コンロとかパーソナル冷暖房器具とか機能を絞った低価格の物が売られている。占い水晶玉とか幸運の指輪とか怪しいのも置いてあり、結構楽しめた。ゲーム機のようなものに目を引かれ、金貨1枚で手に入れた。
「それを買うとは思わなかったわ」
「結構ヒントになる、発想が面白いよ」
「ふ~ん」
片手で持てる白板、上から流れる七色のボールを下にいるスライムを指で動かし食べて点数加算。ボールはだんだん速く数が増えて、最高9999点だ。
「色をつけるのが面白い、オレが目指しているものがあるんだ」
「それはどんな?」
「ふふふ、秘密、最初に見せてやるぞ」
「楽しみにしてるわ」
「ラベルはどうなんだ?」
「ちょっち行き詰まってる。パメラ先生って感覚派、教えてくれるんだけどさ、イメージ出来なくてわかりにくいのよ」
「う~む、魔法は?」
「魔力が少ないって言われてる。魔力って何処にあるんだろう」
「そうか、少し・・・自分のことばかり考えてたな、みんながオレの理論を理解出来るか試してみようか」
「さっきからオレオレって、普段はボクなんだけど」
「あ、さっき驚いて・・・」
「キャハハ」
しまった、いつのまにか『キモオタ先生』封印破ってる。人生初デートって騒いでる。いかん、こいつめ!と聖剣でめった差しにして穴を掘って埋め、聖水を振りかけて手を合わせた。
ラベルと手をつないで寄宿舎に帰った。