第15話 ダンジョン
「B級冒険者パーティ『沈黙の森』といいますです」
「よろしく頼む。一応グラン王立学校で武技も習っているが、基本的に5人は魔道士と考えてくれ」
「わかりましたです」
「装備はそれだけかい?」
「一応、マジックポーチを祖父から借りてきたんだ」
「う!」
「余裕はあるから食料やテントなどは持つよ」
「あ、ああ、そうするか」
伯爵家の私兵もダンジョン訓練の装備は揃っている。軽い革の防具やマント、弓矢と剣はそれぞれ使いやすい物を選んでマジックポーチに入れて運んだ。食料や飲料、回復薬などおすすめも用意してある。
冒険者ギルドから紹介された4人組のパーティは、大湖の北山や川を越えた東森の探索もこなす上級冒険者、リーダーはエステルという女剣士、ダークエルフの血が入っているらしい。盗賊の男と魔道士の女と弓が得意そうな長身の男、バランスは良さそうだ。
ダンジョンは大湖の東南東に流れる川沿いの神殿遺跡の東、入り口階段を囲って売店やギルドの出張所、宿屋が門前町のように立ち並び賑わっている。
フィールド型10階層までで、さらに8階層以上の上級者でも難しい迷路型があり、幾多の冒険者が血を流したため、立ち入り禁止になって久しい。
フィールドでは珍しい果物や薬草が採取でき、魔獣もそれなりに多い。迷い込んで増えた魔獣と疑似生物、倒すと魔石を残して消え、たまに牙や角、毛皮、毒袋をドロップするのと宝箱も出るらしい。噂では過去のパーティの遺品アイテム、借りたマジックポーチもここで回収された物だ。
「それじゃあ潜りましょう、移動中にお互いの話をすると言うことで」
「わかった」
「・・・色々話は伝わってくるよ。ヘルンは魅力的だ」
「探索では上位魔獣が頻繁に報告されている。長年踏み入れられてないからランクアップしているのかも知れないそうだ」
「なるほどね」
「ダンジョンの魔獣みたいに消えないし、高値の素材や肉も得られる。君たちならかなり稼げると思うよ」
「あっという間だものね、見てるだけ」
「気がついたら戦闘終わってるんだもん」
「アハハ、ここの魔獣じゃ弱すぎて腹の足しにもならないさ」
「本当に魔石を貰っちゃっても良いのかい?」
「もちろん、ヘルンじゃ魔石は値崩れしてる。肉の方が何倍も稼ぎになるよ」
「なるほどね」
「冬休みには里帰りするから一緒に来ない?」
「良いかもしれないわね」
「領主の息子の知り合いだったら色々有利かもな」
最初は貴族の坊ちゃん嬢ちゃんのお守りかと嫌そうな顔をしていた。
「それにしても、話には聞いていたけど」
「広いなあ」
「太陽まで見えるのね」
「どういう魔法かわからないけど外と連動してる。だから植物も育つのだろう」
「おっと!」
盗賊のジュリが合図、みんな足を止める。
「前方に2匹、人間じゃない」
「ワンド、弓で倒せ」
「おう」
「じゃあオレも、左を受け持つ」
「はいよ、ベルン」
長身の男はベルン、やはり弓は得意で風魔法も使うらしい。
牙の鋭い猪の魔獣、ベルンは倒し、ワンドは2射目で倒した。
「上手だよ」
「そっちは一撃じゃないか」
「風魔法付与でドライブをかけてある矢なんだ。逃げられて失うと痛い」
「そういう魔法か、なるほど」
矢と魔石を回収、何度も来ているので迷いもせず1層目を踏破、階段を降りると同じような風景だが川が流れている。
「うへ、川か」
「川から魔魚が水魔法で攻撃してくるのよ、気をつけてればよけられるわ」
「当たってもちょっと痛いくらいだけど濡れたくないだろ?」
「うう」
予定通り3日で踏破して封鎖された下層への階段横の結界にある転移魔方陣から地上に戻った。
「ええと、忘れ物はないかな」
「大丈夫」
「それでは依頼完了証明書ね」
魔紙にサインと血判、白く輝いて完了の文字が浮かび上がる。冒険者ギルドに持っていけば約束の報酬、ギルドにはその3割が納められる。
「すごく楽しかったよ、あの話は本気だ。先にでも良いし、父に話は通しておく」
「わかったわ」
昼食を取ってダンジョンを出たので余裕で別荘に帰れる。
ボクは数回、ファイヤーの魔法を使った。実践練習だ。
色々試行錯誤して、普通のファイヤーボールと同じくニセの赤い光をまとわせ、詠唱している振りしたので変だとは思われなかった。
レーザー熱線や超高速水弾の魔法も完成してるが隠している。
位相を揃えた高出力赤外線レーザーは5エタ先のレンガにも穴を開けた。
2千Gで打ち出される水玉は1エタ先のレンガを爆散、反動もなく狙いがつけやすかった。レベルを上下する工夫もしてレーザーには赤い色をつけたり水玉の形を弾丸型にしたりして工夫している。
強力にしても魔力消費はまったく感じない。もし魔道具に応用するとしたら、今までの常識は覆り、世界経済に大変動を来すので封印するつもりだ。
ただし自重せず開発を続ける。マジックポーチの自作を決意した。借りたのは約1デタ立方の容量で百金貨4枚以上もするものだ。
革のポーチ内に魔石と魔道具、魔道具をタッチして作動、対象物に触って収納、出すときは対象物をイメージして場所を指さすと出てくる。同一人物で無いと出し入れ不可能だが、何を入れたか忘れたときや所有者が変わるときは、魔石を抜いて中身を全部出すこともできる。
生命体でも木材は出し入れ可能。動物は死体ならOK、恐らく微生物もOK、線引きがどうなのかは疑問だ。
格納空間は異次元で属性を指定しないと時の流れは止まる。逆に言えば、時間を早める事も可能かも知れない。
大きさが合わないと収納されず、物が重なることもない。物体が出たり入ったりするのにそこの空気が動いた様子は見られないので、空間内は空気で満たされている可能性がある。
つらつら考えていたら石にけつまずいて転びそうになった。
「何ぼんやり歩いてるんだよ」
「いや、恥ずかしい」
「うふ、すごく良い風ね、天気も良いし、達成感があるし」
「面白かったね」
「ダンジョンの最奥には神が造った魔道具があるらしいよ」
「まだ見つかったことは無いんでしょ?」
「破壊された欠片のような物はアトラン王国の宝物庫にあるんだって」
「あたしもそれ知ってる」
「今まで踏破されたダンジョンは無いんだろう?」
「それらしい物はあって触れたら外に転移させられるらしい」
「その魔道具がダンジョン内の魔獣を造り出しているっていうのが通説ね」
「そうか・・・あり得るな、ダンジョンの廻りは特異点だし」
「うん」
「特異点の場所って規則性は無いのかな」
「研究書は図書館にあったはず、遺跡は約千年前の物らしいよ」
突然消えた先史文明の遺跡から見つかったレリーフは人種的には似ているのと、魔神のようなレリーフも見つかっている。魔道具や武器武具の類いも無く徹底的に略奪されていた可能性が高い。
「ドロップアイテムも記念品レベルで手に入ったし、あとは湖でゆっくり」
「またバーベキューしましょう」
「バーベキューセットみたあいつらため息をついていたね」
「そりゃそうさ、マジックポーチ持ちなんてめったに居ないだろう」
「他の冒険者や盗賊に狙われるって言っていたな」
「うん・・・」
無事に別荘についてちょっとホッとし、のんびりして疲れを癒やす。
伯爵夫妻は行きそびれた町や村を全制覇、噂は巡っていて歓待を受けたそうだ。 行かなかったら不公平になる。
曾お祖母さんも一緒に遊んでお土産を買って、楽しい2週間は終了、いよいよ王都に帰還する。
「他の馬車も刷新したんですね」
「アレを知ったらそうせざるを得ないよ、兵車も開発依頼をしているしね、王家の馬車は運ぶだけになるから帰りは4台だ」
「目立ちますよ」
「アハハ」
ジュラルミンの焼き付け塗装は開発中なのでキラキラ、チタンである軽銀は加熱色のことを教えたので独特の青黄赤あるいは本来の鈍色にすることができた。
スピードがあがって2日の旅、街道では本当に注目された。
王都には昼過ぎに到着、綺麗に洗い清めた翌日、王家の厩舎長が馬を4頭引いてきて馬車に繋ぎ、王家の御者、騎士達が護送という段取り、大門を開いて儀仗兵が立ち並ぶ中、伯爵家の馬車と中に入り城に到着。
貴族達が見守る中、伯爵から献上の挨拶、国王は王家の宝物庫からふさわしいお宝を下げ渡し、国王夫妻が馬車に乗ってお披露目、貴族街と平民街の主要道路を練り進んだ。
「大義であった、本当に美しいし、石畳など無いかのような乗り心地だった」
「そうですわね、うふふ、他にも馬車はたくさんあるから注文しなくちゃね」
「陛下、兵車の開発も進めております」
「うむ、それは重要だ、兵達も喜ぶであろう」
「こちらは製造中の馬車の目録でございます」
「ん?各王家の?」
「陛下からのご進物としてお送り願いたいのです。輸送はお任せください」
「はて・・・」
「この馬車は飛ぶように売れるでしょう、廉価版も製造してますので」
「ほうほう、そういうことか、良かろう」
「ありがたき幸せ」
「びっくりする顔が目に浮かぶようじゃ、ベトランは悔しがるだろう」
「そうでございますね」
「わしが直筆の送り状を書こう、ハハハハ」