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記憶障害の転生者って  作者: 日川文月
第1章 転生
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第14話 休暇

「この座席は最高だわ~」

「お尻が痛くないね~」

「キャハハ」


 伯爵家の馬車は座席の改造を終わらせてある。

 国王夫妻を招いて椅子やベッドを試して貰った。立ちあいのパタヤ家具店の店主(イリヤのお父さん)にすぐ発注、実はもう完成して献上ということで大感激。

 馬車は更に良い物を献上するということで上機嫌だった。

 パタヤ家具店には目ざとい貴族から引きも切らず発注、増産体制を整えていたのに間に合わないと嬉しい悲鳴が聞こえている。ヘルンの鍛冶工房も大規模なスプリング製造工場を建て発注に応えている。

 タイヤ製造もめどが立ち、ワンドの父、フェリン国のゾイド卿を窓口に、担当者がゴム原料樹脂生産体制と量と輸送方法、価格の交渉をしている段階だ。

 夏休み旅行に3台の4頭立て馬車と騎士隊の護衛がつくのは伯爵夫妻も同行しているからで、執事と3人のメイドも付き従う。領地に入ってからは迎えの代官一行と合流してあちこち訪問、領主としての仕事をこなし居城に到着した。


「伯爵様は人気があるんですね」

「善政を敷いてるからだよ」

 建国約2百年と比較的新しい国であるグラン国で、ルグラ伯爵領地は産業の育成に長け、織物や工業製品に力を入れていると名高い。海運と海資源開発で名高いオルソウ公爵家と双璧をなしている。


「母上、ご無沙汰しております」

「まあまあ、疲れたでしょう、ゆっくり休暇を楽しむと良いのに、この子達を連れ回すなんて、昔から仕事の虫なんだからね」

「全くですわ、いさめましたのに」

「ううう」

「失礼します、まずは旅の汗を流してからと」

「オホホ、そうね、任せましたよ」


 居城の執事やメイドも王都の使用人とは顔なじみ、さささと指示を出して、各人割り当ての客室に連れ込まれて世話を焼かれる。

 中・下級貴族の友人達はこそばゆい思いをしたらしい。

 ボクはイリヤがしてくれる生活にもう慣れている。


 すっきりして、歓迎晩餐会の後に同行する案内人から説明を受けた。

「明日明後日は街をゆっくりと観光、翌日は伯爵様も同行して工業地域の視察と、馬車工場の見学、その後は大湖の別荘に移動して保養していただきます」

「ダンジョンは?」

「冒険者を雇って潜る日を設けますので・・・初級から中級向けなので3日くらい掛かる予定です」

「なるほど」

「大湖は観光に力を入れてますから楽しめますよ」

「ダンジョンはわくわくするなあ」

「ワンド君は腕力でも女子にも負けるし戦力にはならないけどな」

「ううう」

 運動音痴の記憶しか無い『キモオタ先生』並のワンドだが、弓は上手く、冒険者次第では活躍出来るかもしれない。

「とにかく明日だ、おすすめの店を聞いておこう」

「観光協会が地図を発行してますの、どうぞ」

「お、これはよく考えてるな」

「ルグラの街は発展してるね」


「いらっしゃい」

「やあ、ジルギス、来るたびに工房が大きくなっていてすごいなあ」

「ははは、必要なんだよ、従業員も増えているし」

「タイヤは完成したんですか?」

「あ、その前に紹介しよう・・・」


 友人達を紹介し、ジルギスからワンドに感謝の言葉があった。

「ゴム原料のおかげで新しい成果が得られました。ありがとうございます」

「いいえ、我が国の特産品になりそうなので期待しています」

「奥が深いのでまだ研究は続けますが、及第点の物は出来てるので製造ラインを造ったのですよ。案内しましょう」

 全員貴族。伯爵もいるので言葉遣いはめちゃ丁寧だ。


「レシピは勿論秘密、ノウハウもありますので隠しているところもあります」

 原料投入から工程を経てタイヤができてくる、大型魔道具物だ。チューブは別工程、組み合わせてホイールに組み込んでできあがりだ。

「この場所に専用の空気注入魔道具を押し当てると適正な圧力の空気が入ります」

「ほう、それは馬車に付属するのかな?」

「ごくわずかに空気が抜けるのでそうするつもりです」

「うむ」

「場所を移動しましょう。馬車の部品工場です。フレームは中空の鋼鉄製、車体は新合金のジュラルミンと軽銀を組み合わせています」


 部品を造って組み立てラインで職工が貼り合わせていく内装は断熱材を挟んだ化粧合板仕上げで高級感がある。

 大型と小型の量産品工場から高級品工場へ移る。


「ここでは更に高級な素材を使用した一点物、ま、主要部品は共通ですが」

「紋章付きですね」

「ええ、伯爵様の指示で追加の六王家の紋章入りを造っているところです」

「お祖父様?」

「ははは、一見は百聞に勝る、グラン国王からプレゼントすれば良い宣伝だ」

「すごい、さすがです。伯爵様」

「それでは完成品の乗り心地をお試しください」

「うむ」


「伯爵様の馬車はご希望通り4頭立ての7人乗りサロンタイプになりました」

「おお、広い、窓が大きいな。木目は高級感がある」

「座席がゆったりしてて肘掛けもあるのね」

「階段みたいになってるからスカートでも乗り込みやすいわ」

「出入り口が上下に開くのか、雨の時にも濡れにくいなあ」

 『キモオタ先生』の記憶にあったビジネスジェットのタラップ風だ。


 全員乗り込み閉める。御者がブレーキを外し馬に指示、ゆっくり動き出した。

「テストコースに行きます、わざとガタガタ道や急カーブなど、あらゆる場面を想定したコースですよ」

「スピードは?」

「直線で最高時速4フェタです」

 前世換算で時速50kmは馬車としてはすごく速い。悪路をスムーズに走った。

「揺れない・・・いや揺れてるけど感じない」

「浮いてるみたい」

 感心したのは車体とフレームの接合、スプリングとゴムダンパーが組み合わされて振動も揺れも更に軽減されていた。椅子の座り心地も最高だ。


「どうどう」

「すごいです」

「これは馬車の革命じゃ~」

「伯爵様、王都に帰る際は王家への献上馬車もお運びください」

「わしから?」

「当然ですよ」

 馬車工房長と、販売商会長が嬉しそうにうなずいていた。

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