第11話 ゴム
「これがゴムか」
「ネタネタの木の樹脂が乾燥して固まったものがゴムの原料です。これをいったん練って樹脂の分子を短く揃えます。さらに混練りといって炭素の粉、硫黄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、木繊維等を混合していきます。
輪にして型に入れて圧力をかけ、熱も加えて冷ますと、弾性ゴムのできあがり、コレは失敗作、堅くなりすぎで弾力がありません。
混合比率は研究して下さい・・・」
さすがに『キモオタ先生』でも混合比率とか温度とか細かいことは知らない。それでも、前世でタイヤ工場見学に生徒を引率した記憶をそこまで覚えてるとはさすがと褒めておいた。案内女性の巨乳がドストライクって・・・。
「タイヤ中に入れるゴムチューブは空気を入れてクッションになります。密封接着できますよね?魔法で空気を入れたりも」
「ああ、多分」
「ホイールの形状でゴムが外れないようにします。完成形は失敗作ですけど、ひっくるめて車輪です」
ホイールは軽合金のスポークタイプでドラムブレーキまで内蔵。独立懸架とジルギス達が頑張った。ステンレスフレームに各部品を取り付ける構造、重量は従来の板バネ式と比べかなり軽く、馬の負担も減って最高速度も上がるはずだ。
「だいたいわかったぞ、外側の溝は悪路のためだな」
「だいたい合ってますが、この溝は水抜き、水が薄い膜になると滑るからです」
「ほうう」
「微振動による車軸の劣化を防ぐ効果と、ボールベアリングで保ちが格段に違ってくるはずです」
「うんうん、ほとんど交換の必要が無い。軽くなって馬も喜ぶよ」
「ジュラルミンはできそうですか?」
「バッチリ、あとは何処まで薄くできるかだな」
「こういう波形形状は力学的な強度アップになります。強度が必要なところは中空パイプ形状が良いです。強化板ガラスはできましたか」
「まあ、既存の技術だよ」
「ボディに紋章を打ち出しにしてもいいかも」
「ほうほう」
「椅子のクッションは完成したよ、座面は厚いが柔らかい皮にした」
「良いですね、仕事が早い」
「あとはタイヤか、しばらく掛かりそうだな」
「ある程度いったら耐久性も含めてテストして微調整ですね」
「まあ、年内と言わず9月には完成させたいな」
「楽しみです」
土や火魔法加工は作業が正確で早い、是非ともマスターしたい。
「魔道具の学習の方はどうだい?」
「う~ん、考えすぎかも知れません、魔道回路の原理が今一理解出来ない」
「そうか、わしは魔力操作の方法を刻み込んでいると思っている。魔法結界陣に魔力を使って物や性質を与えていくような・・・」
「あ、操作の方法ですか、プログラミングのようなことか・・・魔素を使えば物理学に介入出来る?うんうん、なんかつかめたかも。ジルギス、ありがとう」
「なんかわからないが良かった」
魔素はエネルギーに変換するだけで無く、魔素で変換操作をする。魔方結界陣は操作の場で大きさを指定して様々にエネルギー変換すれば良い。すごくシンプルに考えられるようになった。ただ、E=mc2乗だとすると魔素に質量があるのか引っかかる。
時間を加えた4次元宇宙、実際は11次元かも知れないが、亜空間や重力場を用いた移動、エネルギー物質変換も考えやすい。波長を揃えた高エネルギーの光、レーザー光線だって扱えるかも、電磁波、電気エネルギー、土魔法も物質とエネルギーの操作と捉えられる。
ジルギスに後を任せ、帰りの馬車でいろいろ考えた。
帰宅して祖父に報告をする。
「ジルギスと弟子がやる気を出していまして、研究がはかどっていました」
「ゴムというか樹脂にそういう使い方があったか」
「10月までには形になりそうです」
「この椅子もつけるのかな」
「そうですね、どうですか?」
「座り心地は天国じゃ、ベッドも楽しみだなあ」
「王家の家具もパタヤ商店で納入していますから、交換させましょう」
「あたくしたちのもね」
「もちろんです」
輪ゴムも考えたが、ゴミ処理するスライムは食べられるだろうか。
貴族や裕福な商家では水洗トイレがあり下水処理にもスライムを使用している。
お尻を拭くのは洗浄魔法か柔らかい紙、消臭も魔法、生活魔法は本当に便利なので早くマスターしたいものだ。
「今夜は晩餐を一緒にね」
「はい、曾お祖母様から土産を預かってますので料理長に渡しました」
「お、そうか、季節だなあ」
大湖名物はモンスタートラウトの塩漬け、煮ても焼いても美味な初夏の味覚だ。