第10話 燃焼の化学
「え~こんなに?」
「いや、つい喋ったら、集まってしまって」
「わかりました。ケン・ミカミ・ルグラと申します、以後お見知りおき下さい」
学長や魔法学部の2大教授を含め10人もの先生が講義室に参集した。
「本日は科学のなかの化学についてほんの少し知識を披露します。ええと異世界の字を書きますね。同じ発音カガクで文字は違います。用意したのはガラスの水槽の水と蝋燭です。まずは水についてお話しします。どなたか水槽の水の一部を、そうですねこのぐらいの立方体に凍らせていただけませんか」
「ああ、それならわたしが・・・」
魔法師のポンテ・アルト・ロートがタクトを振った。
「さすが」
「おいおい、たやすいことだよ」
「ええと同じ水が氷になりましたが浮いていますね。なぜ浮くのでしょう」
「それは比重というものが変わったからだ。体積あたりの重量が変わった」
「正解です。では、比重が変わった理由はいかがでしょうか」
「そ、それは・・・」
「一方で、水をガラス容器に少し取り、蝋燭に火をつけます。しばらくすると沸騰して水が無くなります」
「それは蒸気になって逃げていくからだ。湯気が出ておる」
「そうですね、この状態の変化を、物質の三態と言います。気体・液体・固体、ほとんどの物質はある一定の温度と圧力で相変異をおこします。この道具はエンヤ先生にお願いして硬質ガラスのチューブに水銀を封入したものです。沸騰する水に入れると100の目盛で水銀が止まりました。この温度が液体から気体に変わる水の沸点、水のほうは22でしょうか、そして氷にちょっと穴を開けて突き刺す・・・0の目盛に達して止まりました。水の三態を基準とした温度計になります。水銀は熱くなると膨張、冷えると収縮する性質があり。鉄等も同じく熱で膨張収縮します。さて、最初の問題、水はどうして比重が軽くなるのか、冷えると収縮して比重は上がるはず・・・」
水分子を模した結晶構造の模型を見せる。崩してその嵩を示す。
「水分子が構造的に規則正しく並んだ状態を結晶と言います。液体は結晶が崩れ自由に動き回る状態ですが互いにはくっ付いている。コレが液体、模型はちょっと大げさですが嵩が減って、同じ重さでも体積が減るつまりは氷より比重が重くなり、従って氷は浮くのがこの現象の説明になります。さて、気体はどうでしょう。水分子が大きな距離を持って離れている状態です。水分子は極小さいので気体になると目に見えなくなります。湯気はまだ少し水が集まっている状態なので目に見える状態、すぐにバラバラになって見えなくなります・・・」
「・・・分子というのは物質の単位、さらに言うと水分子酸素原子一個と水素原子二個が分子間力でくっ付いたものです。水素原子は最も軽い原子、気体の水素は水素原子が二つくっついたもの、酸素も酸素原子が二つくっ付いたものです」
「・・・燃焼とは酸素が他の原子と結合することで、このとき化学エネルギーが放出されます・・・水素発生装置の化学式はこうなります。発生した水素を水槽に入れたビーカー内に閉じ込めます・・・着火お願いします」
「では、わたしが・・・わ!」
「空気中の酸素と爆発的に燃焼し水に変わりました。水はすぐに冷えて液体になるのでビーカー内の水素は消えたように感じられます。では、空気中に酸素があるのかどうかを測ってみましょう。蝋燭に火をつけ・・・ビーカーをかぶせます」
「蝋が酸素と反応して燃えるのだね」
「そうです。空気中に酸素だけだったら水面は蝋燭の芯まで来て火が消えるはず」
「途中で消えたぞ」
「はい、だいたい5分の1ぐらいのところ、空気中にはその割合で酸素が含まれています。5分の4は窒素がほとんどで、2酸化炭素、水蒸気、その他微量元素があります」
「さて、物が燃えるには燃える物質と酸素に熱が必要です。物に固有の着火温度といいます。水素は燃えやすいので着火温度は低く、木材に含まれる炭素は着火温度が高い、紙は木から作られますが燃えやすいのは乾燥しているのと、繊維が細かく空気が接している面積が多いので反応しやすいという理由があります・・・」
「さて、攻撃魔法のファイヤーボールは火魔法と言われていますが、その実、何が燃えているのか・・・イメージして下さい・・・あたかも何かが燃えているようですが、空気中の酸素だけでは燃えません。窒素は酸素と反応しますが着火温度はとてつもなく高いし、酸化窒素は水と反応して酸を発生します・・・」
「・・・はい、その通り、火魔法の本質は高温です。熱を帯びた物質は光を発します。鉄が高温になると赤くなるのはそのためです・・・魔法は目に見える現象を人がイメージしたもののほうが発動しやすいため、自然界に多い水や土や木、金属を扱いますね。火魔法は身近なだけにイメージしやすいのですが、燃焼ととらえるか熱と捉えるかで大きく本質が違います。わたしはそこら辺を考えながら魔動回路を勉強します」
簡単な実験と板書で化学反応式を説明、時間的に盛り込みすぎたが、結論として今後の方針を示せたと思う。
先生方の態度は色々だが、最終的には大きな拍手を貰えた。
最初は緊張したけど、『キモオタ先生』結構やるなあと褒めておいた。