第八話 発射1話前
「さてここで取り出したるは自転車の空気入れを改造しておいた発射装置」
おじさんは背後に隠そうとしても隠し切れていなかったけど空気を読んだわたしが特には触れずにいたナニカを誇らしげな様子で紹介します。
「発射レバーまでつけておいた、なかなか良いものを作ったと自負している」
カモメさんが、というより鳥さんの得意気なドヤ顔をわたしは初めて目にした気がします。
「そういえばロケットに取り付けたノズルには自転車のノズルが付いているのでしたね」
「つまり、それがどういうことかわかるかな?」
「……空気入れを使ってロケットに空気を入れる、でしょうか」
「その通り」
やりました! とはいえ正解までの道のりをおじさんにお膳立てしていただいた問題であったようにも感じます。おじさんのそういうところ、嫌いじゃないです……
「まずはロケットに燃料を注入しよう」
「水を入れればいいのですよね?」
おじさんは頷きます。
わたしたちは近場の水道へと向かいました。
と、ここで疑問が浮かびました。
「どれくらいの量のお水を入れるのでしょうか?」
「……そうだねえ」
おや? いつもわたしの質問には丁寧に答えてくださっていたおじさんが言葉を濁しました。
「今回は三百ミリリットルでやってみようか、まあだいたいの量でいいよ」
「それが最適な量なのですか?」
「……どうだろうねえ」
うむむ、またしてもおじさんはふにゃふにゃと、のらりくらりと質問の答えを交わしているように思います。どうしたことでしょう、思い切って聞いてみましょう。
「はっきりした答えを教えてはいただけないのですか?」
少々生意気な聞き方でしょうか。しかしわたしは正解が知りたいのです。……わたしはワガママなのかもしれません。それともまさか、おじさんがイジワルをしている?
おじさんは少し困ったように、しかしはっきりとわたしに言いました。
「正解をひかりさんに教えることは容易い。しかしね……」
「それでは面白くないだろう」
むう、どうやらおじさんはイジワルなカモメだったようです。はっきりと質問に答えてくれないだけでなく、あまつさえ答えたら面白くないとは……! まったく、おじさんはまったく!
「気を悪くしたかな? しかしそう怒ることはない、いずれ何が楽しいことかがわかる時も来るだろう」
「……そうですか?」
まだわたしの気分は釈然としたものではありませんが、ここはおじさんに免じて済ますとしましょう。とはいえよく考えてみると、ここには計量できる道具は何もありませんでした。正確な量を測って入れることもできないので、結局は目分量で入れるしかなかったのです。
「注水、完了しました!」
「了解した、しっかりとノズルを閉めたらいよいよ発射準備に入る」
「いえっさー!」
「とりあえず今回は適当な段差を作ってそこをランチャーにしよう」
「ランチャーとは?」
「この場合は発射台かな」
こういうことは直ぐに答えてくれるおじさんです。
わたしたちは海岸の砂や岩、流木など使えるものは全て使って見事なランチャーを作成しました。
「さてと」
おじさんは空を見上げました。わたしもつられて空を仰ぎます。雲一つない青空が直下の海のように大きく広がっています。
本日は晴天也、ロケットを飛ばすにはいい日と思われます。
「本日は晴天だ、ロケットの発射日和だね」
おじさんとわたしの心は同じのようです。わたしはおじさんと笑い合いました。
「では、これからロケットの発射シークエンスに入る」
「いえっさー!」
いえっさー再びです。ロケット発射も、わたしのワクワクとドキドキもクライマックスです。