第五話 ものづくり
「先ずはそのペットボトルの上下を切るんだ、スカートを作る」
「スカート?」
スカート……とは何でしょうか? ひらひらと現在穿いているプリーツスカートをはためかせて考えます。しかしわたし程度のお粗末な頭ではとても想像がつきそうにありません。そんなわたしの様子をおじさんは微笑みながら見つめておりました。カモメさんの表情を人間のわたしが詳しく読み取れるのかと問われれば『ノー』なのですが、少なくともわたしにはそう感じたのです。
「この場合、スカートとは『ノズルスカート』を指す」
衣服のスカートとは違うよ、とさらにおじさんは付け加えます。そうですよね、とわたしは頬が熱を持ったことを感じました。
「ロケットが火を吹いている場所を思い出してごらん。下へ向かうにつれて膨らみがましていて、まるで貴婦人のスカートのようではないかい?」
なるほど、とわたしは納得し、ロケット婦人のスカートの製作に入りました。わたしはカッターを取り出します。
「ケガだけは絶対にしないよう気をつけて。どんなに良い物が造れたとしても、誰かを犠牲にして完成させたのならばきっとそれに価値はない」
その言葉はとても力強い物でした。
「作り上げたもので人を傷付けてしまうことだって、だ」
続けて呟いた言葉は先程とは打って変わって、か細く繊細で、物憂げな言葉でした。
「……気をつけます」
わたしはいっそうの注意を持つことを心に決めました。
「さて、ペットボトルの上下を切ることに成功したね」
きれいに切れたね、とおじさんは褒めてくれます。ふふふ、こんな事でもお褒めの言葉を頂けることは嬉しいものです。わたしは単純で素直な人間ですから。
「もう一本のペットボトルは蓋を外して、飲み口側から先ほどのスカートを差し込む。ビニールテープでよく固定。ああ、逆側の切り口にもテープを貼ろう、切口で怪我をしてしまうこともあるからね」
ふむふむなるほど。おじさんは怪我には人一倍厳しい人のようです。気を付けねばなりませんね。
「できました!」
「すばらしい、では次の工程に移ろう。次はそうだな……」
おじさんはわたしが集めた材料をぐるりと見渡して続けて言いました。
「フィンを作ろう」
うーむ……またしても聞き慣れぬ言葉です。この世はまだまだわたしの知らないことで溢れているのだと感じました。それはきっと、とても嬉しいことでしょう。わたしの知的好奇心はとどまることを知らないのですからね。
「フィンとは何ですか?」
「姿勢を安定させるための小さな翼のこと。ノズルスカートの下方に三角形のフィンをつけるんだ」
「ええと、確かにそういうものが付いているイメージはありますね」
しかしあれにはそこまでの意味があるものなのでしょうか? おじさんに聞いてみましょう。
「風を掴むにはそういうものが必要なのだよ。空を飛ぶ凧のヒラヒラとした足、風を切る矢に矧がれた矢羽根も同じようなものさ」
ははあ、なるほど。あれらは飾りではなく、必要だから付けられているものだったのですね。
「ひかりさん、君は『ものづくり』に向いているかもしれないね」
おじさんは続けて言います。
「漫然と思考を止めて製作をするのではなく、作業やモノに対して常に疑問を抱いている。そして知ろうとしている。それは『ものづくり』にはとても大事なことだ、君はそういう素養をしているように思えるよ」