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第二十二話

「どうかされましたか?」

「うん、そうだね。どうかしてしまったんだ」

「よくわかりません」

「お別れ、したくはないんだがね」


 ーーガツンと。


「……旅の途中と、前に仰っておられました。何処かに行ってしまうのですか」

「いいや、私の人生が潮時なんだ」


 ーー冷たい氷の塊で頭を打たれたような。


「人生が?」

「そろそろ人生の猶予期間は終わりにしなければいけない、私はカモメだからね」


 ーー脳が透明な思考をしながらも混乱して。


「はっきりと言ってください」


 ーー本当は、何を言いたいかなんてわかっているのに。


「私の、ジョナサン=クレゼントの人生は終わりだ。自我を捨てて、一羽のカモメに戻るんだ」


 ーー言って欲しくはありませんでした。


「どうして、今なんですか」

「カモメの数が減っていた、それは私の存在が原因だ。私はずっと、世界の輪廻を止め続けてきた。そのツケが今になって回ってきた、ただそれだけなんだ」


 ーーそれでも、どうして今なんですか。


「それではおじさんは」

「ああ」


 ーー嫌だな。


「私は、明日にでも空を飛ぶ」


 ***


 突然の告知に、わたしの脳裏は熾烈を極めておりました。今の現状を理解して受け止めて、でも受け止め切れず、感情が溢れていました。溢れた感情はわたしの目から、口から吐露され止まることを知りませんでした。


「どうして? せっかく知り合えたばかりなのに、沢山のことを教えてもらえたのに。なんで行ってしまうのですか」

「小さな輪廻の歪みだが、見過ごしてはおけない。今は小さくとも、その歪みは世界に伝播しかねない。私は空を飛んで、ただのカモメとして新たな生を享受しなければならない」

「そんなのわからない! やっぱりおじさんが何を言っているのかがわかりません!」


 輪廻とか、世界とか、そんなことどうでもいい。わたしはそんなことでおじさん別れるのは嫌だ、おじさんは嫌ではないの?

 突然、おじさんはその翼でわたしを抱くように抱えました。羽毛が、汗と涙に濡れて肌に貼りつきます。いい気分ではありませんが、不思議とわたしの気分は落ち着きを取り戻してきました。


「私が空を飛ぼうと決めた理由はもう一つある。ひかりさん、君だ」

「……わたし? ですか」

「始めて目にした君は、海を描いていたね。夢中になって絵画に勤しむ君はとても眩しかったものだ。」


 おじさんはわたしが落ち着いた様子を見ると、離れてお話を続けます。


「実は最初からその様子は見ていた。ひかりさんの輝きに気後れし、声をかけることを憚っていた。だが、その光に触れたくなったんだ」

「……見ていたんですね、ちょっと恥ずかしいです」

「ロケット作りに取り組む君もまた美しかった。その様は可能性の原石を見ているような、磨いているような心持ちだった」

「……すごく恥ずかしいです」


 おじさんは笑って、続けます。


「そして、ロケットは完成したんだ。もう思い残すことはない。発射を見届け、私も空へ旅立つ」


 おじさんは笑顔でそう言いました。でもーー。


「本当に、何もないのですか」


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