第二十一話
「そういえば、先ほどロケットを飛ばしているときに気付いたのですが」
わたしは本日の実験結果をノートにまとめながら、おじさんに話しかけます。
「ここ数日はカモメさんの数が少なくありませんか?」
「うん? 意識していなかったなあ、すまないが私にはわからない」
私は水平線の方を指差し、目線を空に集めます。
「ほら、いつもは空が賑わっているというのに、今日は一羽も飛んでいません」
「本当だ……これは、いや、しかし、普段の様子がわからないことには……」
「普段の様子もわかりますよ」
わたしはスケッチブックを手に取ります。パラパラとめくり、夏休み当初に描いていた海のスケッチを観察します。
「夏休みが始まったころは、海の風景の移り変わりを自由研究にしようとしていましたからね……ほら、この時にはこんなにたくさん飛んでいたのです」
「……カモメの数まで正確に描いていたのかい?」
「はい、見た風景のそのままを描くように意識していましたので、確かだと思います」
「……そうか、やはりそうもなるものか」
「最近はこの海岸に違和感があるのです。どこか不自然で、どこか歪んでいて、わたしの知る場所ではなくなってきたような」
おじさんはどこか寂しげな、憂いを帯びた表情を見せます。おじさんの気分に呼応する様に、空模様も曇りがかってまいりました。
「今日はここまでにしよう、データをまとめるだけならば家でもできるだろうからね」
おじさんに解散を提案されました。確かに、大荷物で雨に降られれば目も当てられません。今日の実験はこれで終わりにするのがよいのでしょう。
「では、また明日。太陽の下でまた会おう」
***
日を跨ぐとお空の雲は何処へやら、吸い込まれるような晴天が続きました。私たちは数日間かけて実験を続けました。
***
「フィンを少し歪ませて取り付けてごらん」
「おお、空中で回転して落下してしまいました……」
「数や形状も検討事項になりそうだね」
***
「ノーズコーンの先端に油粘土を入れたのは覚えているかな?」
「はい、緩衝材の新聞紙と一緒に入れましたね」
「量を変えてみようか」
「どれくらいの重さにしますか?」
「実験実験」
「あう……」
***
「デコレーションで色々なものを貼り付けたり絵を描いていますけれど、余分な物が無い方が飛ぶのではないですか?」
「それではつまらないから私は嫌だなあ」
「そ、そうですか……」
***
そしてわたしは、わたしが目指した、最高のロケットを作り上げることができました。
水の量、フィンの形状に数、重心の位置に重量、他多数。
きっとわたし一人では辿り着けなかった、いえ、目指そうともしていなかった境地に到着できたように感じます。
ーー早く飛ばしたいな。
わたしの胸の内はそれ一つでした。
ロケットに見惚れるわたしを尻目に、おじさんは海を空を俯瞰して呟きました。
「潮時、か」




