第二十話
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「これは……」
わたしたちは水の量を変えた対照実験を行ないました。私の予想は『水の量が増えればロケットの飛距離が伸びる』だったのですが、実験結果は次のようなものでした。
水の量が少なければロケットは飛ばない。少しずつ水の量を増やしていけば飛距離は伸びていった。しかし、ある量を越えるとロケットの飛距離が短くなるようになってしまった。
「何故だと思う?」
「うーん……」
吹き出す水で推進力を得ているのだから、水は多ければ多いほど良いと感じていました。少ない水から始め、最初は順調であったのにどういうことなのでしょうか?
「このロケットは水で推進力を得ている。では、水を入れたペットボトルを逆さまにしただけで空を飛ぶと思うかね?」
私は横に首を振ります。そんな様はとても見たことがありません。水を押し出す力が必要なのですから……
ということは?
「水を増やすことで押し出す力が弱くなった?」
「水を押し出す力とは?」
「ポンプした空気、です」
おじさんは頷き、わたしの思考をさらに促します。道筋を辿り、未知を考える。刺すような陽射しに邪魔されながらもわたしは思索を続けるのです。
「水が少ないと空気ばかりで進む力が足りない。水が多いと、水を押し出すための空気が足りない……?」
わたしは、恐る恐ると答えを導き、おじさんの顔色を伺いました。
「迷いながらも答えを得たじゃないか。素晴らしい」
おじさんは右手……右の翼を高くわたしに差し出します。わたしたちは強く手を叩き合わせました。その力強さと響いた音は、掌を、耳を、見つめ合う眼球を通してわたしの全身に流れるのです。
***
「うーん……」
「次は何をお悩みだい?」
「水を押し出す力が足りないというのならば、それを増やしてあげれえばよいのではないでしょうか」
わたしは新たに産まれた疑問を口にします。
「ポンプする回数を多くしたらもっと遠くまで飛ぶと思うのです」
「そうだねえ、間違いではないだろう。しかし……」
「ようし、次は空気の量で実験しましょう!」
「それはいけない」
突如おじさんに諫めれれてしまいました。いつもならばわたしの発想を見守ってくださるというのに、なにがいけなかったのでしょうか。
「この実験において、空気の量は圧力で管理しなさい」
「なぜでしょうか?」
「空気を入れすぎた風船は爆発するだろう、それがこのロケットでも起こりかねない。ペットボトルの破片が飛び散れば怪我をしかねない」
ははあなるほど、確かにそれは危険ですね。
「いろいろな条件を自ら考えて実験をするのはとてもいいことだ。思いつきでやってみた実験から良いデータを得られることもあるだろう。しかし、それによる背反や危険はないかを考えるべきだ。取り返しのつかないことになってからでは遅いからね」
ーーそうでした。おじさんが安全に拘るのも、わたしが怪我などしないよう注意していただいているのも然るべきなのでした。きっとおじさんも昔のことを悔いているのでしょう。そんなおじさんの前でわたしはなんと軽率だったことでしょう。
「……気をつけたいと思います」
おじさんはわたしに優しく微笑みかけました。




