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第十九話

「このロケットを飛ばしたとき、水をどれくらい入れたか覚えているかい?」

「三百ミリリットルだったでしょうか」


 これはよく覚えています、何せおじさんにイジワルされたのですから。水を入れる量の正解を問うたところ解答を曖昧にはぐらかし、挙句の果てには答えを教えない方が面白いと仰っていたことをわたしは未だに忘れておりません。


「よく覚えていたね、では水の量を減らすとどうなるだろうか」


 ロケットは水を吹き出して飛ぶのです。水が減れば噴射の勢いは失われるでしょう。


「ロケットの飛距離が伸びなくなると思います」

「ふむ。水が少なければロケットは飛ばない、水が多いほどより遠くまで飛ぶ。そういう予想だね?」


 わたしは頷いて肯定の意を示します。間違っていないはず……たぶん。


「では実際に確認してみよう。この比較実験を行うにあたり、重要なことがある」


 おじさんは意気揚々とお話を進めます。わたしに何かを解説するとき、わたしが未知を体験するとき、おじさんはとても楽しげな様子に見えます。ああそれと、わたしにイジワルするときも楽しそうですね。


「それは、条件を同じにするということだ」

「ええと、この場合は水の量以外を同じにする、ということでしょうか」

「その通り、これを対照実験という。横にらみ、という言い方もある」


 新しい言葉をまた覚えました。対照実験に横にらみ。よく反芻しておくとしましょう。なるほど、条件を同じにして調べたい事柄のみを変えて比較する、ですか。確かにこのようにすれば、水の量がロケットの飛距離に対してどのように起因しているかがわかることでしょう。


「この実験を繰り返し、ノートにまとめるんだ。そうすればロケットを飛ばすに最適な水の量を研究することができる。実験により、自らの力で新しいことを知れるんだ」


「ーーそれはとても面白いことだと思わないかい?」


 その発言はわたしの鼓膜を突き破ったようでした。それはわたしの胸に突き刺さる言葉だったのです。

 今までにやってきたお勉強は、先生に言われたことをやる、ドリルを解く、本を読んで調べるといったことばかりでした。それは言い表すならば、受身の学習だったのではないでしょうか。しかしこの実験はそれらとは違い、能動的な研究に感じます。


 人から教えてもらわない? 自分の手で正解を見つける? なんとステキなことではあるまいか。


「だからおじさんは、あの時の質問に答えてくださらなかったのですね」


「ああ、だってその方が面白いだろう?」

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