第十七話 ジョナサンという男3
「そして、次に目覚めた時にはこのカモメの姿であったということだ」
おじさんは一息つきました。わたしは頭の整理がまだ追いついていません。しかし、まだ幼いわたしでも、おじさんの人生は壮絶なものであったのだということは理解に及びます。
「ええと、ごめんなさい。高次元? とか難しい話も多くて、わたしは全部理解ができていないかもしれません」
「いいさ、私がひかりさんだったとして、人からこんな話をされても信じられるとはとても思わない」
まあ私は鳥だがね、そう言っておじさんは笑っています。
大変に辛く、難しいお話に私の脳は疲れてしまいました。疲れたときには甘いものが欲しくなります。わたしは休憩がてらと、家から持参したママの手作りクッキーを取り出しました。
「おじさんもよろしければどうぞ」
「とても美味しそうだが、遠慮しておこう」
「甘いものはお嫌いですか?」
「そういう訳ではないが……ではもう少しだけ話を続けよう。ひかりさんは食べながら聞いてくれ」
おじさんはお話を再開しました。わたしはクッキーを一口かじります。
「この姿に生まれ変わった私は、もちろん空を飛んでみようと考えた。しかし翼を広げた瞬間、チクリと頭に痛みが走ったんだ。それは電気信号のように全身へ伝わった。その刺激は苦痛ではなく、むしろ心地よいものだった」
「このまま空へ飛び立てば、総てを忘れて気持ちよく飛べるだろう。そう感じた」
おじさんは翼を広げ、過去へ想いを馳せるように話を続けます。
「しかしその時、嫌な予感もしたんだ。このままカモメとして空を飛べば、自分がなくなり、過去の記憶がなくなり、本当に総てを忘れてただのカモメとなってしまうのではないか、と」
おじさんは翼を閉じました。
「たぶんその予感は当たっていたんだ。私はこの姿になってから一度も食事をしていないし、代謝もしていない。きっと私が空を飛んでいないから、カモメとしての人生が始まっていないから、私の時間は生まれ変わった日からずうっと止まっているんだ」
 




