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第十六話 ジョナサンという男2

「私の名はジョナサン、カモメである。旅の途中であるが、現在は偶然に出会った可愛らしいお嬢さんと共にペットボトルケットを作っている。そのお嬢さんはロケット作りに一生懸命で、何よりもやる気と希望に満ち溢れているように見える。私に出来ることがあれば、彼女を導いてあげたい。そう、思った」


 私は腰を下ろし、おじさんから借りた濡れタオルでコブを冷やしながらお話を聞いていおります。天井が低いこの横穴、気をつけようとは思っていたのにやってしまうわたしは間抜けな子です。それなのにおじさんにそこまでお褒めいただけると恐縮してしまいます。口元がもにゅもにゅして気恥ずかしいです。


「さて、それでは少し昔話をしよう」


「私は、もともと人間であった」


 ええっ! とわたしは思わず立ち上がりました。天井に頭をぶつけますが、濡れタオルのおかげで被害は最小限で済んだことは不幸中の幸い。これ以上ケガをしたら話は終わりにするよ、とおじさんに釘を刺されました。今度こそは気をつけなければ、わたしはヒザを抱えて座ります。


「この日本という国ではない、そもそもこの世界とは少し違う所で、私はジョナサン=クレゼントという一人の人間であった。その国の名はソレリアという」


 わたしが無知なだけではないとすれば、確かにソレリアという国は聞いたことがありませんでした。


「わたしは当時、飛行機を設計する仕事をしていた。より早い、より強い飛行機を作ることが私の生きがいだった」


 早く……強い? 強い飛行機とはどういうものでしょうか、どうもわたしにはピンときませんでした。


「妻と娘がいたが、家族のことを省みずに仕事ばかりしていたよ。設計班のリーダーを任されていたが、周りを見ずに設計して、図面を描いて、とても独りよがりだった。部下の指導も疎かで、愚かだった」


 おじさんは目を瞑り、ため息をつきました。


「そしてある日、事故が起こった。私の設計した飛行機の試作機が墜落したんだ。パイロットは亡くなった、いい奴だったのに」


 友達だったのに、とおじさんは付け加えます。


「原因は部下が担当した部位の設計不良、私がちゃんと指導していれば防げたであろう簡単なミスだった。それなのに私は自分を棚に上げて部下を激しく責めた、叱咤した」


 おじさんの瞳は哀しみと後悔に暮れているように見えます。それでもおじさんは話を続けます。


「その後も私は仕事に、飛行機の設計に打ち込み続けた。そして遂に、自分にとって最高傑作とでも云うべき飛行機を作り上げることができたんだ。最高に早くて最高に強い、最高な飛行機だ。余所の国の飛行機と比べて圧倒的な性能を誇る、その時代には、いや、向こう数百年はオーパーツともみえる素晴らしい出来だった」


 わたしは胸の動悸が早まることを感じます。おじさんがとても辛そうに過去を語るから。


「完成した飛行機を見たとき、私はあることを思った」


「『これはまだ人類には早すぎる』」


「この飛行機はこの世界にあってはいけない、きっと犠牲になる人が大勢でるだろう。そう感じた私は、図面を、実験データを全て破棄した。そして、完成した飛行機に乗って空へ飛び出したんだ」


 おじさんはしばらく沈黙しました。そして、再び話し始めます。


「その飛行機を作ったとき、その飛行機に乗っていたとき、たぶん私は高次元にいたのだと感じる。人という枠を飛び越えて、飛行機と、空と一つになっていたんだ。あの飛行機は、人間のステージを一つ上げるだけの力を持っていたんだ。私は操縦中、泣いて、笑って、叫んで、そして」


「自ら海に突っ込んだ。人間としての私と、飛行機は死んだ」


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