第十四話 おじさんの家?
「失礼しました。あまりにもおじさんがかわいらしかったもので……」
「いやあ、褒められているんだ。別段気にもならないよ」
イタズラっぽく笑い、カモメのおじさんは続けました。
「それにこの姿が可愛いことを私は自覚している」
誇らしげにレインコート姿でポーズを決めています。おじさんは時々お茶目な方です。そんなところもかわいらしい。
「ここでは濡れてしまう、雨風がしのげるところへ移動して話そうじゃないか」
おじさんの先導により、わたしたちは場所を変えることにしました。
※※※
「ようこそ、私の拠点へ」
わたしが案内されたそこは、海岸近くの小さな横穴でした。奥行は五メートルほどでしょうか、高さはわたしの身長よりも少し高いくらい。気を抜くと頭を天井にぶつけてしまいそうです。
辺りを見回すと、先日ロケットの発射に用いた空気入れもあります。他にも何に使うのかわたしにはとてもわからないモノが沢山置いてありました。おじさんは小さなハンガーにレインコートを掛けております。溢れる生活感にわたしは少しだけ笑ってしまいました。
「おじさんはここに住んでいるのですか?」
「今はそうだね」
「今は?」
「ここに住み始めたのは昨日からさ。今年の夏の間くらいはいるつもりだ」
「……えっ? ずっとはここにいないんですか?」
「ああ、旅を続けているんだ」
渡り鳥だからという理由ではないんだけどね、とおじさんは付け加えました。
そうなのか。おじさんはいつかはここから、わたしの前から去ってしまうのか。これからも一緒にいられるものだとなんとなくそう思ってしまっていたけれど。
「ーーそれは、やだなあ」
思わず口をついて出てしまいました。おじさんはちょっと困ったような顔を見せます。
「そう言ってもらえるのも嬉しいところがある。しかし、別れは来るものだ。それを悲しんではいけない」
「……はい」
「少なくとも、ひかりさんとロケットを作っている間はここにいるよ」
わたしはおじさんにお礼を言い、その場に座り込みました。
「でも、その綺麗な翼で大空を旅するのはとても気持ちが良さそうですね」
「あー、いや、うん。それなんだがね」
おじさんはどこか歯切れが悪く続けます。
「実は、私はこの翼で空を飛んだことがないんだ」
雨の音が横穴の中で反響して広がります。外はまだまだ雨がやみません。




