第十話 涙の価値は
あれからわたしは感情の昂りをどうにも抑えることができませんでした。ジョナサンを回収して再び発射シークエンスをとろうとしたのですが、落ち着かない気分のままでは危険だとおじさんに諌められ、今日は家に帰ることとなったのです。
確かにおじさんの言う通りかもしれません。そぞろな意識では身近な危険に気付くことができず、自分のみならずおじさんや無関係の方々にまでケガをさせてしまうこともきっとあるでしょう。
そのようなことには、わたしも勿論のことですがおじさんは人一倍気を付けているように見えます。ケガや事故を未然に防ぐということは人として……カモメとしても当然なのかもしれません。しかし、わたしを注意する時のおじさんはとても悲しい顔を見せるのです。過ちを悔いるような戻らない過去を悲観するような、そのような表情と、小さな瞳を見せるのです。
わたしが泣き崩れている間も、ずうっと側にいてくれたおじさんです。とてもとても優しい方。ロケットのことも、おじさんのことも、わたしはようく知りたいと思います。
『君の時間は有限ではあるが可能性はまだ無限に広がる』
おじさんはそう言って、明日もわたしと時間を共にする約束をしてくださいました。次にお会いする時には、おじさんのことも沢山教えてくれるとこを期待して、わたしはまだまだ日が高いうちに、汗を拭って路へとつくのです。
※※※
「そういうこともあるだろう」
わたしはロケットを飛ばして思わず涙が溢れたことをパパにお話しました。するとパパは、晩ご飯のハンバーグを食べながらわたしに色々なことを語ってくれたのです。
「感情をコントロールするってことは大人でも難しい、もちろん僕にだってそうだ。ひかりはまだ小さいのだから尚更難しかったのだろう」
「初めて自分で作ったロケットなんだ、思い入れも一際大きかったよね? それならば感極まってしまったとしてもなんらおかしいことはない」
「悲しくて涙が流れた訳ではないことは自分でもわかっているのだろう。嬉しい! とか、やった! とかそういうプラスの気持ちが爆発してしまったんだ。なかなか無い経験だよ」
「だからそのロケットを作り上げたことと、ひかりが流した涙は誇りに思っていい」
「よく頑張ったね」
ーーパパもそういう涙を流したことがある?
「ひかりが産まれた時、かな」
「改めてひかりにもお礼を言っておこう。僕たちのところに産まれてきてくれてありがとう。愛してるよ、ひかり」
ーー今日のカプチーノは、ほろ苦いけれどいつもよりも甘いです……




