二:作戦開始前
二〇××年一二月二一日一八:四七
クリスマスイブまで:残り七〇時間
クリスマスまで:残り七七時間
作戦開始まで:残り六一時間
「右に修正、〇・五ミル。......撃て《ファイア》」
夕暮れに鳴り響く轟音。AWMから放たれた338ラプアマグナムが弛い放物線を描きながら翔び、一キロ近く離れた人型の的の頭を撃ち抜く。
「命中」
隣で観測手をしているマークスが短く告げてくる。頭から爪先まで黒で統一した格好で煙草を吸っている。この時間帯になると保護色になり、煙草の火が無ければ完全に闇に溶けて見えなくなるだろう。
「ん?」
咥えた煙草の煙で風の向きと速さを測る。
「風が出始めた。北東からの風、風速毎秒一・九メートル。目標、Rの二番」
「これ?」
レーザーポインタの付いたAWMは指示された目標にピタリと照準を合わせる。
「それだ。.......撃て」
数瞬遅れて響く轟音。そして一秒と少しで目標の頭部に命中する。
「ヘッドショット」
「感触はどうだ?」
「上々ね」
「ソイツは良かった」
「ほれ」
渡されたのは白い紙箱。以外と重く、揺らせばカチャカチャと金属音がする。
「これは?」
「HEIAP弾」
「なにそれ」
「榴弾、焼夷弾、徹甲弾の三つの機能を持った弾丸だ。二〇発入ってる」
マークスはニコチンを吸い込み、空に吐き出す。
「オマケだ」
「あなたはオマケが多い上に高価過ぎるよ」
「気のせいだ、気にするな」
そう言いながらあなたは笑う、とても寂しそうに。
二〇××年一二月二四日一六:〇〇
クリスマスイブまで:残り三〇分
クリスマスまで:残り六時間三〇分
作戦開始より:八時間経過
諸君
我々はまたクリスマスを迎えてしまう
一人きりのクリスマスを
本来は神の降誕を祝う聖なる夜
それはいつしかリア充がまぐわう為の性なる夜に変わってしまった
共に祝う家族もおらず、添い遂げる相手もいない人間にとって屈辱の夜になってしまった
子供にプレゼントを与えるサンタ達も変わった
移り行く時代の中、子供達はネットで簡単に世界を知り、無邪気で純粋な心は穢れに染まった
真に良い子が減った日本に、彼らが持ってきたものは"色情"と"絶望"だ!
リア充共は淫行にふけり、独り身の我々は嘆き、怒り、悲しみ、朽ち果てていった
彼らを、否、奴等を我々は討たねばならない
倒さねばならない
諸君
立ち上がるのだ
奴等にこの大地を踏ませるな
諸君
共に戦おう
我々にはサンタを狩る権利と義務がある