雨空を見上げた男
男は、家の近くの中華料理屋で
夕食を済ませる事にした。
雨の中、遠出をする気にもならず
とは言え 家で作る気力も無かった。
その店は、老夫婦二人でやっている
カウンターだけの
こじんまりとした所だが、味は中々のものだった。
この日は雨のせいか
客は男と、何故か少年が一人だった。
小学校四、五年の少年が、黙々と
焼き飯を食べる姿を見ながら
男は、このシチュエーションの不思議さを
思わずに居られなかった。
食べ終えた少年が、代金を支払おうと
ポケットから小銭を取り出し
店主に渡した。
受け取った店主は、少年に声を掛けた。
「 ぼく、家でご飯食べなくて良いの?」
少年は俯き加減で答えた。
「 家にあまり居たくないんです。」
店主は少年の様子に気遣いながら聞いた。
「 ふうん。それは、どうして?」
少年は答えた。
「 お父さんとお母さん、いつも喧嘩ばかりしてるから。。。」
店主は、少年の家庭事情を察しながらも優しく
「 そうかぁ。でも、お父さんもお母さんも心配するから
早く帰った方が良いよ。」と、声掛けた。
「 ありがとうございます。」
丁寧に挨拶し、少年は雨の中走り去った。
男は、この光景を目の当たりにし
ドラマよりドラマティックな現実という奴が
やはり存在するのだと
雨空を見上げながら、思った。