13話 対カースドラゴン戦【フェーズ1】
――翌日
魔神フェネクスがいた廃墟から数時間歩いた場所。
そこにある竜の谷と呼ばれるところに、わたし達はいる。
狭い入り口に、円形状に切り立った崖に囲まれた、岩ばかりの荒地。
草は一本も生えてないし、枯れ木がチラホラとあるくらい、殺風景な光景。
「本当にここでいいのか、フェネクス?」
「間違いなく、龍脈が吹き溜まりはここだ。獣人」
狭い入り口から、中を伺ってみる。
はい、いましたよ。
ぐっすりと眠ってるようなドラゴンが。
「ほう……まさか奴だとはな。これも導きというヤツか……」
「あのドラゴンを知ってるの、魔神さん?」
「ああ、奴の名はカースドラゴン。呪われた竜とも言い、禍を撒き散らす最悪の竜の一種だ」
カースドラゴン……なんて凶悪そうな顔立ちしてるんだろ。
頭には二本の太い角に、いかにも悪いドラゴンっぽい真っ黒な色をしてる。
右眼に大きな傷跡がついてるから、歴戦の貫禄があるよ。
「じゃあ作戦どおり、エレたちが注意を引くです。トドメはお姉さまにお願いするです」
「……本当にわたしでいいの?」
自信なんてないよ。
ゲームの中のドラゴンくらいしか倒したことが無いのに。
「……俺はお前を信じるだけだ」
ロイが信じてくれるなら、なんだかやれる気がしてきたけど。
「主人よ。この獣人の言う通りだ。石ひとつで、魔界侯爵の一人である私を目覚めさせ……ではなく、倒したのだ。ドラゴン如き、恐るるに足らん」
「そうですよ、お姉さま。フォローはエレにお任せです」
フェネクスもエレも、わたしを信じてるって顔をしてるよ。
わたしは背中にある折り畳み式の弓を手に取った。
いったいどうしてこうなったんだろう。
昨夜の晩のことだ。
魔神フェネクスと一戦交えた後なんだけど。
麓の町に迷惑かけてるのは、フェネクスじゃない事は納得できた。
エレ一人は納得できてないままだったけどね。
じゃあどうして、町の飲み水や生活水が毒に侵されたのか。
「……ふむ。ここから下の町か。たしかそこは龍脈の真上にあったはずだったな」
「龍……脈です?」
「おい、魔神。そのリュウミャクってなんだ? 俺たちにも分かるように説明しろ」
ロイ。それが人にモノを教わる態度じゃないよ。
「龍脈も知らないのか、貴様たちは。はぁ……ここまで無知だとはな……いいか。そもそも龍脈とはな」
「……えっと、凄いエネルギーが川のように、地面の中を流れてるとかだったよね?」
「おお、さすが我が主人。このバカ共とは大違いだな」
「バカって言うなです。変態魔神」
「この小娘と一緒にするな!」
二人とも即否定しちゃったよ。
「その龍脈と町の件とは、どう関係してるです?」
風水とかだと、龍脈の流れが悪くなるとダメってくらいしか知らないんだよね。
「本当に無知なのだな、小娘。ならば主人に代わって、私が教えてやるから、感謝しろ」
この世界の龍脈とは。
この大地を網の目のように流れている、エネルギーの奔流で魔法の源にもなってる、とフェネクスは言う。
その流れが交差する場所に、吹き溜まりであるポイントがあるそう。
所謂、パワースポットみたいな場所よね。
「その龍脈の吹き溜まりに、稀にドラゴンが来る事がある。そのドラゴンの存在が龍脈に作用し、町に影響を与えているのだろう」
「……そうなのか……じゃあ、ギルドの連中もそれに気づいて、吹き溜まりとやらに向かった可能性があるって事か」
「間違いないだろう。魔法使いにとって、龍脈のことは常識なのだからな」
「エレ。お前、知らなかったのか? ギルマスの妹だろ、一応」
「うっ……エレは魔法使いじゃ無いですから、知らなかったです……ごめんなさいです……」
フェネクスとロイに挟まれて、エレは小さくなちゃってるし。
「もう、いいじゃない。エレも反省してるみたいだし。それに目指す場所が分かったんだから。今後のことを考えましょ」
「うぅ……お姉さま〜!」
泣きそうな顔をしながら、エレはわたしに抱きついてきた。
なんだかんだでも、やっぱり子供だから。
わたしが良き理解者でいてあげないとだよ。
泣いてるエレの頭を撫でてやったんだけど、ときおり「うひひひ」って変な声が聞こえる。
この子もやっぱり変なのかも知れないな。
「これからどうするんだ? イザベル」
「……これからどうするって……そりゃドラゴンをどうかしないと、町も困ったままだしねぇ」
「お前なぁ。今の自分の立場を知ってて言ってるんだろうな?」
ロイの視線が、エレに向いている。
あ、忘れてた。
わたしは今逃げてる途中なんだ。
ロイは、「これ以上面倒ごとは勘弁してくれ」って言いたそうな顔をしてる。
分かっているんだよ、ロイの言いたいことは。
話まで聞いて、困ってる人を放っては置けない性分なんだよね。
だからごめんだよ、ロイ。
「ここまで来たんだから、ドラゴンを倒しに行こうよ」
わたしの言葉に、ロイは首を振って呆れた顔をしてる。
「お姉さま〜!!」
「ふむ。我が主人が行くのであれば、私の事も牛馬車のごとく使ってくれ」
言い回しがなんか引っかかるけど。
エレと魔神さんが入れば、なんとかなるよね。
後は――
「……そんな期待するような目で見やがって……ああ、もう。手伝えばいいんだろう、手伝えば」
「ロイ!」
小さく舌打ちして、ロイはホールから出ていちゃった。
ちょっと怒ってたような感じだったな。
わたしの我儘に付き合わせちゃったかな。
ロイが心配してくれてるのは分かってるんだよ。
なんせ、命を狙われてるんだから。
後で謝っておこう。
「全く……お姉さま。あんな男は無視して、作戦を練るです」
「小娘の言うとおりだな。私がいるからと言って、相手はドラゴンなのだ。気を抜けば、あっという間に全滅もあり得るからな」
「うん。そうだね……しっかり作戦を練ろうね」
今はドラゴン退治の事を考えよう。
わたし達は、絶対に勝つんだからね。




