もしも私が悪役令嬢になったら
「ねえ、美咲が悪役令嬢になったらどうする?」
「え?」
いつものように有紗と昼食を食べている時に、突然そんなことを聞いてきた。昔と変わらない笑顔で。どうしてそんなことを聞いてくるのだろうか。
「悪役令嬢に転生! っていうのが流行っているのでしょう? だから気になって」
「ああ、そういうこと」
私は読書が好きで本屋に行くことが多い。そして確かに最近悪役令嬢に転生してなんやかんやする物語が増えてきていることにも気がついてた。
「どうして私に聞くのよ」
「美咲に聞いてみたいと思って! 美咲なら何か面白いものを考えてくれそうだから!」
「そんなに期待されても……」
全身をキラキラさせながら言われても、困っちゃうよ。でも、大切な親友だった有紗の頼みだ。それを無下に断るのも嫌なので考えるとしよう。そうだなぁ、
「没落回避のために頑張る、とか?」
「それも好きだけど、それって本屋にあったのを言っただけでしょ? 私は美咲がやりたいことを知りたいのよ」
「えー」
考えつかなくてどこかで見たことがあることを言ったら案の定突っ込まれた。それにしても、私のやりたいことかぁ。令嬢ということは貴族社会に生まれてある程度親に権力があるっていうことよね。
「あっ」
「ん? 何か思いついたの?」
ふと、考えつかなくて前を向いたらそこには有紗の姿があった。有紗の姿を見た瞬間に、ふと、一つだけ思いついたことがあった。そしてわかった。どうして有紗が私にこんなことを聞いてきたのか。本当に、私のやりたいことを知りたかっただけなんだね。
でも、ごめん。
「あんたを探すよ」
「え? 私を?」
「そう、有紗を」
暗かった私を助けてくれた有紗。もし、私が転生するとしたら、私が死んでしまっているということになる。だから、
「私より先に死んじゃったあんたを探すよ、有紗」
「……」
私が転生できるのなら、当然あんたもしてるはずだよね、有紗。私の答えを聞いた瞬間、有紗は嬉しそうに、そして同時に悲しそうに笑った。
「もう、私のことを忘れてくれていいのに」
「絶対に、忘れないよ」
そんな顔を見ながら、私は思う。私はあんたの望まないことを口にするよ、有紗。それに有紗、言っていたでしょ? 悪役令嬢になったらどうするって。悪役なんだから、なにしてもいいよね。