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046 最強の冒険者ギルド

「ギルド長」

「……なんだよ」


 夏も過ぎ、朝夕はだいぶ涼しくなってきたある日。冒険者支援ギルド、コディラ支部長兼冒険者のヴェゴーは、これまた職員兼冒険者、かんちゃんからの報告を聞いていた。


「人手が足りません」

「ですよねー……」

「現在抱えている案件は全部で214件、そのうち実行中が16件。……残りが198件ですが、どうします?」

「……外注は?」

「……外注先はパンク寸前です。オルカさんにもお断りされました。なんならザマンさんがここしばらく、矢継ぎ早に入ってくるクエストのせいで家にも帰れないそうです」

「ぐぬぬ……」


 かんちゃんのA級審査の日以来、コディラ支部にはひっきりなしにクエストが舞い込んできていた。どうやら助けた一般人が尾ヒレをつけて話したのがきっかけらしい。噂は噂を呼び、コディラ支部は今や、超人気ギルドとして知らぬものはない存在となっていた。


 曰く、超S級魔獣、「ヤカラ」を飼っている。

 曰く、飼い主は小柄な美少女で、音を使って魔獣を使役する。

 曰く、極彩色の冒険者がよく出入りしている。

 曰く、鋼すら真っ二つにする冒険者がいるが、誰も見たことがない。


「……魔獣って俺のことか」

「他にも、翼の生えた見習い職員がいるとか、あざとい獣人の冒険者が依頼主の財産を食い尽くすとか、全てを消し炭にする食堂のおばちゃんがいるとか。否定出来ない噂がいっぱい出回ってるせいで、興味本位のクエストなんかもじゃんじゃん増えてますよ」

「勘弁してくれ……」

「あ、でも一つ、これは私も忙しさにかまけて集計してなかったんですけど」

「ん?」

「ここ半年ほどの依頼達成率が全ギルド中1位だそうです」

「ほほー」


 ヴェゴーは困り果てた表情のまま、不敵な笑いを見せた。見かけによらず器用な魔獣もどきである。


「ま、失敗してねえからな」

「はい。半年の達成率が100%は前代未聞だそうです。ちなみに2位はガーネイ支部ですね」

「オルカんとこか。流石だなぁ」

「達成率99.2%。3位以下を8%以上引き離しての単独2位ですね」

「大所帯のくせにすげぇな。新人のミスをベテランが上手くさばいてる感じか」

「ザマンさんの活躍が相当効いてるみたいです。失敗しかけのクエストに、片っ端から助っ人として回されてるらしくて」

「うわぁ……」


 ヴェゴーの脳裏に、カサカサにやつれてヨレヨレ歩くザマンの姿が浮かんだ。

 実のところそれに近い状態にはなっているのだが、それでも確実に依頼だけは成功させているあたり、ガーネイのエースと呼ばれるだけのことはある。


「……な、かんちゃん」

「なんです?」


 かんちゃんは報告をしながら、コーヒーを淹れているところだった。深煎りの豊かな香りがふわりと漂う。


「人、増やす?」

「んー、そうですねぇ……」


 悩むそぶりをしつつ、かんちゃんはヴェゴーの前にカップを置いた。淹れたてのコーヒーの香りがヴェゴーの鼻を包み込む。

 ヴェゴーが口を付け、満足げなため息をつくと、かんちゃんは自分のコーヒーに、砂糖とミルクをだばだば入れた。


「相変わらずだなぁ」

「糖尿上等、ですよ。“髭のおっちゃん”のシュークリームも用意してます」


 言いながらかんちゃんが魔導冷蔵庫からシュークリームを取り出し、キラキラと目を輝かせ、パクつき始めた。


「んおううえまい、あいもうむあんがいえうあ?」

「何言ってんだか全然分かんねえよ、ごっくんしなさいごっくん」

「んっんっ……はぁ」


 かんちゃんもだいぶ小慣れてきたなあ、とヴェゴーは思う。


「ひとり増えたし、大丈夫じゃないですか?」

「お、いよいよデビューか、“有翼の冒険者”は」

「はい。B級クエストが2件、同じ人から出ているので、まずはそれをやってもらおうと思います。レストランの食材集めですね。採集と狩猟です」

「ああ、いいところだな」


 審査会場で拾った有翼人、マリンは、一応冒険者として活動はしていたものの、これといった成績を残してきたわけではなかった。可もなく不可もなく、といったところだ。

 その彼は、この半年ほど見習いとしてコディラ支部で働いていた。冒険者としての基礎を仕込む時の、かんちゃんの鬼のようなスパルタは、ヴェゴーをして震えが来るほどだった。

 それでも耐え抜き、ようやくのヤカラギルドデビューである。


「いい冒険者になりそうだなあ」

「私が仕込みましたから。少なくとも事務系クエストはお墨つけちゃいます。……ところでヴェゴ……ギルド長」

「んー?」

「出番ですよ」


 かんちゃんはそう言いながら、一枚の依頼書をヴェゴーに見せた。

 そこには、


 “SSS級魔獣討伐。ただしクラスは仮。Z級の恐れあり”


 と書かれていた。その横には、ヴェゴーが受注したという証が入っている。


「え、まじ?」

「まじです」

「……これ、受けちゃったの?」

「はい、受けちゃいました」

「そうかぁ……」


 ヴェゴーはどっと疲れの出たような表情で、デスクに突っ伏した。


「ギルド長もたまには現場に出ませんと」

「うっ」

「久しぶりですね、パーティ組むのも」

「ぐっ」

「……私、ヴェゴーさんと一緒に、クエストやりたいです」

「ぐほぅっ……!」


 ダメ押しの一言はヴェゴーに相当効いたようだった。


「あーもう、しょうがねえっ」


 ヴェゴーはガバッと顔を上げた。獰猛な笑いを浮かべ、その目は嬉々として輝いている。


「かんちゃん、ナン姐さん達に連絡入れてくれ。今やってるクエストが終わったら速攻で帰ってこいってな」

「了解しました。ヴェゴーさんは?」

「オルカに連絡してザマン確保する。ヘロヘロだろうが構わねえ、かんちゃんも一緒だっつったら顔ツヤッツヤにして来るだろうぜ」

「あ、外注さんにもお願いします」

「了解だ。連絡取れるか分かんないけどな。忍者ってのは掴みどころがなくていけねえよ……」


 そう言ってヴェゴーは早速魔導通信機を手に取った。


「――もしもし。おう、オルカか。ちっとザマン貸してもらえねえか……」


 冒険者ギルド、コディラ支部。

 もはや、かつて悪評で有名だった面影はそこにはない。


 国内最強冒険者ギルド・コディラ支部。

 通称“ヤカラギルド”の物語は、まだ始まったばかりである。


【完】

長期にわたりご愛読、ありがとうございました!!

途中色々あって書けなかったりしましたが、なんとか書きたいところに着地できた気がします。


今度は別の作品で、また応援よろしくお願いします!!ヽ(´▽`)/

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