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ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第一章 死霊王討伐編

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003 かんちゃんはギルド長の実力に呆れます

これからも盛り上げていくんで、応援よろしくお願いします!!

「てめぇ……俺たちに喧嘩売ってタダで済むと思ってんのか」

「死んだぜぇおっさんよぉ!?」

「……4対1だが、悪く思うなよ」

「あ、蘇生魔法は触媒が高いんで使えませんからね。……死んでも知りませんよ」


 ヴェゴーとヤカラパーティは、ギルドの外で向かい合っていた。

 ヤカラパーティは万全の陣形である。

 全身鎧は片手剣に大型盾。

 軽装戦士は双剣。

 魔道士は杖。

 僧侶はハンマーにバックラーと呼ばれる小型の盾。

 いかにも“冒険者パーティ”といった風体である。


 対してヴェゴーは、ギルドの制服にそのまま履いて出てきた室内サンダル。

 以上である。

 武器すら手にはしていない。

 それどころか、左手はポケットに突っ込んでいた。


「ギルド長、せめて武器くらい……」

「いらんいらん、素手でじゅーぶん」

「! 上等だこのロートルがぁっ!!」

「うーるせぇな。いいから来いよ小僧」


 やる気満々フル装備の戦闘PTに向かって、ヴェゴーはあくまでも軽い。


「格の違いってのは、おっかねえんだぜ?」

「てめぇぇっ!!」


 激昂する軽装戦士の前に立ちはだかったのは、全身鎧だった。


「落ち着け。思うつぼだ」

「ちっ、わぁったよ。……よし、僧侶は常時回復と物質硬化を全身鎧に。俺には速度増大魔法を寄越せ」

「……おっ」

「……常時回復(コン=リカバー)発動。……続けて物質硬化(プロテクト)発動。」


 僧侶が順番に魔法を唱える。彼の前に白い光が現れ、洗礼を受けた神の紋章を形どっていく。その光は全身鎧へと移り、彼自身と盾を覆った。同様に軽装戦士には速度増大(スピード)の魔法をかける。


(構成は悪くない。指示も及第点だ。普通にやってりゃ普通にいいパーティだな。……だが)


「……お前ら、魔獣専門だろ」

「だったらなんだよ」

「言葉のわかる奴相手に口に出しちゃいかんだろ、作戦を。何するつもりか全部バレんぞ。格下ばっかり相手にしてっからそうなるんだよ」

「なっ……!」

「まぁセオリーだし、聞くほどのこともねえけどな」

「おぉいおっさんよぉ、随分でけぇ口たたいてっけどぉ、かんちゃん逃がす時間稼ぎのつもりなら無駄だぜぇ?」

「あほか」

「ぁあ!?」


 ヴェゴーは深くため息をついた。


「しゃべってる暇があるなら仕掛けてこい。まったく、どんだけ強いのかしらねぇが、戦術はなっちゃいねえな」

「るせぇっ!!」


 叫んだ軽装戦士が、腰につけていたナイフを投げつける。ヴェゴーはそれをこともなげに、首だけで避けた。


「甘い!!」


 盾役の全身鎧が、シールドを前にして突っ込んでくる。が、スピードはそれほど速くはない。


(ほぉん、てことは)

「ファイヤーボール!!」


 ヴェゴーとの間合いに入る直前、ふいに頭を下げた全身鎧ごしに火の玉のような赤い光弾が飛んできた。

 と。


 パァン!!

 大きな破裂音と同時に、光が急にヴェゴーの眼の前で軌道を変えた。

 ヴェゴーが右の裏拳で(・・・)光弾を弾き飛ばしたのである。

 

「なにぃっ!!」

「まだだっ!!」


 突っ込んできていた全身鎧が、体勢を低くしたまま盾を前にして突っ込んできた。ヴェゴーは光弾を弾いた腕をそのまま突き出し、盾の前で拳を開く。全身鎧は盾ごとヴェゴーの手のひらに止められ、その先に一歩たりとも踏み込めなくなった。


「ぐおおおっ!!」

「だからよ」


 ヴェゴーは何度めかの溜息をついた。


「術名をそのまま言うとか初心者かお前は。何のためにみんな自分で術名付けてると思ってんだよ」


 魔法にはそれぞれ名前がある。だがそれは、発動する前に予め仕込んでおく魔法陣に組み込まれているので、実際にはわざわざ口に出す必要はない。トリガーとして声に出す魔道士は多いが、その場合は発動するまで相手に気づかれないため、別名を付けておくことがほとんどであった。


「魔法なんざ対処されたら手品と一緒だ馬鹿」


 それでも聞いてから即対応するあたり、超級冒険者の肩書は伊達ではなかった。

 ふとヴェゴーはかんちゃんの方を向いた。かんちゃんはぽかんと口を開け、ぼんやりとした眼をヴェゴー達に向けている。


「おー、大丈夫か? 戦闘魔法なんて事務やってるとそうそう見ねえだろ」

「あ、いや、それもそうですけど……って危ない!」

「ん」


 話す間に軽装戦士の双剣がヴェゴーに襲いかかる。彼の左右からほぼ同時に斬り掛かってくるそれを、ヴェゴーは盾を支える反対の左腕一本、正確には指三本の間に刃を挟んで受け止めていた。


「くそっ! 離しやがれっ!!」

「いや、自力で外せよ」 

「このっ、馬鹿力がっ!!」

「ただの馬鹿よりはマシだと思うがなぁ」


 ふいにヴェゴーが力を緩めると、軽装戦士は後ろに倒れ、最初の位置から動かない僧侶の足元まで転がった。


「最初にダガー投げて挑発、前掛かりのところに盾が迫って、後ろから火属性魔法で大やけどか。本来はあれだろ、盾のそいつがそのまま突っ込んで、双剣でトドメの予定だったんだろ? 僧侶はまぁ普通に回復か」

「な、なぜそれを……」


 こともなげに作戦をバラすヴェゴーに、4人は開いた口が塞がらなかった。


「そんなもん教本にも書いてあらぁ。しかもそれ、中型魔獣戦闘の基礎じゃねえかよ。……っと、わりぃ、お前を放ったらかしにしてたわ」


 そう言いながら、ヴェゴーは盾を止めていた右手を軽くとん、と突き放すように弾いた。


「うおっ」


 一瞬体勢を崩した全身鎧は、なんとかその場で踏みとどまる。

 だが、それで済ませるヴェゴーではない。


「お、なかなか」


 称賛しながら右腕を引き、溜めを作る。上半身を右に絞り、引いた腕を脇腹に畳んでいる。


「おらっ!」


 ゴウ、という風を切る音と共にヴェゴーの拳が放たれた。ドンッと鈍い音を立て、盾のど真ん中にぶち当たった拳は、そのまま全身鎧を身体ごと数メートル程吹き飛ばし、全身鎧に尻もちをつかせた。


「なっ、なんだてめぇ、魔法使えるのか!」

「多少は使えるが、今のは魔法じゃねえよ」


 ヴェゴーは彼らを見下ろした。その眼力に、パーティは蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けないでいる。


「ただの右中段突きだ。技なんて大層なもんでもねえ。いやーしかしなまってんなぁ」


 そう言いつつ殴った右手をプラプラと振ってみせる。それを見ているヤカラパーティは、もう可哀想になるくらい顔面を蒼白にさせていた。


「ま、とはいえ筋はそう悪かねえ。ちゃんと修行するなら少しは面倒みてやるぜ? でもなきゃ」


 ヴェゴーが四人を睨みつけた。ぴん、と空気が張り詰める。ほんの一瞬の間だったが、彼らは耳が痛くなる程の静寂を感じたに違いなかった。


「二度とこの辺りをうろつくな。……次はねえぞ」

「ヒッ!」


 四人が揃って息を呑む。次の瞬間、四人は揃って糸の切れた人形の様に、その場に崩折れた。かんちゃんが近づいて、状態を確認する。


「……気絶しちゃってる。起こすのもめんど……悪いですし、戻りましょうか」


 かんちゃんもだいぶ染まってきたな、と思うヴェゴーであった。


――――


「さっきの人たちから伝言です。“二度と来るか、他の奴らにも拡めてやるからな”とのことでした」

「おー、手間が省けるなぁ」

「ていうかギルド長、なんか出鱈目に強いですね。魔法を素手で弾き飛ばすとか、私初めて見ました」


 感心、感動というより、むしろ呆れた口調である。


「そうか? まぁ、向こうがぬるかったのもあるけどなぁ。あ、そだ、かんちゃんの適性検査、ちゃちゃっとやっちゃうか。……前衛職に興味ある?」

「もし殴られたら私、一発で号泣する自信ありますよ」

「そんな自信持たなくていいよ……。てことは後衛か……かんちゃん、去年やった体力測定の結果どこだっけ?」

「三番の棚の一番上、右から二番目の箱です」


 即答するかんちゃんに感心しつつ、ヴェゴーは体力測定結果を出した。


「なんかやってみたい後衛職とかある?」

「いえ、今日の今日まで、自分が冒険者になるなんて思ってもいなかったので」

「そりゃそうか。人気があるのは魔道士、僧侶、弓使いあたりだけど」

「……どれも無理ですね」


 魔道士になるには魔力が足りない。僧侶は洗礼が必要。弓使いは肉体労働。

 事務能力に関する項目以外全てC〜B、洗礼も受けていないかんちゃんでは、仮になれたとしても戦力としてはおぼつかないレベルになってしまう。


「事務能力系Sってのも実際凄いんだけどなぁ……って、えっ!?!?!?」


 ブツブツと呟きつつ測定結果の用紙を眺めていたヴェゴーだったが、急に一点を見つめ固まった。うっかり口から離れたカップから、コーヒーがだらだらと床にこぼれ落ちる。


「あっ、ギルド長、こぼしてるこぼしてる!」

「あっちぃっ!! ……っていうかかんちゃん、これ!」

「なんです?」

「いやこの魔法適正んとこ、全部の属性に○ついてんだけど!?」

「あー、でも適正値は低いですよ。レベル1魔法しか使えませんし」


 かんちゃんは言いながら、ヴェゴーのこぼしたコーヒーを雑巾で拭いている。


「高い低いじゃなくて! どんな大魔道士でも使えない属性ってのは必ずあるはずなのに……!」

「そうなんですか?」

「……かんちゃん、趣味とか特技ってあるか? 何でもいい、遊びでも構わねえよ」

「特技ですか? んー……笛とかギターなら、ちょこっとだけ出来ますけど」


 そう言うと、かんちゃんは自分のカバンから縦笛を三本取り出した。長さはそれぞれ異なっている。


「たまにこうして遊んでる程度ですけど」


 そう言ってかんちゃんは、縦笛に手をかざし、ふっと息を吹きかけた。

 すると、笛はひとりでに立ち、三本で最近流行っている曲を奏で始めた。三重奏(トリオ)である。


「……!」

「魔力量が少ないんで、この程度しか出来ませんけど……って、どうしたんですか?」


 全属性魔法に事務仕事で鍛えた並列処理。

 もしこれを戦闘にも活かせるとしたら……?

 ヴェゴーは楽しみが膨れ上がると同時に、周りにバレた時の恐ろしさを感じていた。


「……かんちゃん、全属性の魔法が使えることは誰にも言うなよ。知られると、下手したら命があぶねえ」

「え、どういうことですか?」

「それだけかんちゃんの能力は貴重だってことだ。今はそれだけ知ってりゃいい」

「わ、わかりました……」


 この特性がもしも人に知れ渡ったとしたら。

 ほぼ間違いなく、かんちゃんを捕獲するクエストが、魔法学会から出されるだろう。

 そして捕らわれたが最後、死ぬまで実験材料として使われることになる。


「とりあえずなんでもいい、適当な属性を使えないってことにしとけ。検査した医者は俺の友人だ、あいつから漏れることはないだろ。っていうかそういうのはちゃんと言えよなあいつ……」

「……そんなに珍しいんですか?」

「俺は少なくとも聞いたことねえよ。……ま、心配すんな」


 少し不安そうに見えるかんちゃんの頭に、ヴェゴーの大きな手がぽん、と乗った。


「ちゃんと俺が鍛えてやるから。一人前になるまではきっちり護ってやるさ」

「……超級冒険者ですもんね」

「おう、なんかこう、小舟にでも乗ったつもりで」

「小舟なんだ……」


 やがて二人のカップが空になり、適性検査という名の雑談はおひらきとなった。


「さて、俺これからB級の捕獲クエやりにいくけど、一緒に行くか?」

「え? どこ行くんですか?」

「言ったろ。ヤカラ街だよ。捕獲クエ8件、全部犯罪者の捕獲だ」

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