029 ヴェゴー達は打ち上げを楽しみます
SSクエスト「死霊王討伐」。
数ある冒険者クエストの中でも、難易度としてはかなり上位に位置されるこのクエストは、数々の困難を乗り越えた末、大変あっけない一撃で幕を閉じた。
死霊王が討伐されたことで、彼の操っていたゴーレム達も動きを止めていた。
「いやあ、やっとクエスト終わって帰りがけにちょっといい風に当たろうと思ってここで寝てたんですけどね。あっはっはー」
「……」
「木の上でまったりしてたら、そういえばギルド長に呼ばれてたなーって思い出して、やばい! て思って立ち上がったら木の上だってこと忘れてて。あっはっはー」
「……」
「木に登るのに魔力使い切っちゃってそうなるとロケットも動かせないし、まぁ死にはしないかと思って下見たらでっかい人形みたいのがいてびっくりしちゃいましたよー、あっはっは……って、あれ?」
ヴェゴーは完全に毒気を抜かれた顔でグレイを見た。つい目をそらしたグレイだったが、今度はかんちゃんと目が合った。その瞬間びくうっと身を震わせ、再びヴェゴーに目を向ける。
グレイの額からつーーと汗が伝い、顎の先に貯まって落ちた。
「……なぁ、グレイ」
「は、はい? あれ、私またなんかやっちゃいました?」
「やっちゃったっていうか……やりやがったっていうか……」
言いながらかんちゃんの方を見れば、彼女もすっかり気が抜けてしまっている。
「お前が突っ込んだ人形な」
「え、へい」
「……あれが討伐対象だったんだよ」
「はぁ……」
「SS級のな」
「はぁ……はぁ!?」
SS級の報酬がいかほどになるか。グレイも冒険者の端くれである以上、その想像は容易だった。
呆然とするグレイを、かんちゃんがため息混じりに追撃する。
「……ちなみに、討伐対象がパーティ以外の冒険者によって討伐された場合。……クエストは、無効になります」
「……あっ」
「あっ、じゃねえこの馬鹿野郎っ!! やるならパーティに入ってからやりやがれっ!!」
「す、すいませんんんんっ! でもそんなの私聞いてないし」
「言おうと思ってたら帰ってこなかったんじゃねえか! 連絡も無視しやがるしよ!」
「連絡? ……あ、電話」
「忘れてたんかい」
「いえ、あの。……壊しちゃいまして。あ、あははー」
ぷちん。
と、ヴェゴーの額の血管が切れる音がした。
「てんめぇえええっ!! さらっと備品ぶち壊してんじゃねえっ!!」
「ちょ、ちょっとヴェゴーさん!」
「離せかんちゃん、こいつは、こいつだけは俺がこの手でっ!!」
「す、すみませぇん……」
――――
結局、死霊王討伐はオルカ達ガーネイ支部との共同作戦という名目でクリア、という形に落ち着いた。グレイはオルカ達のパーティに後方支援として参加していた「ことにして」、報酬はガーネイとコディラで半分ずつ分け合うことになった。
大きなクエストの達成には打ち上げパーティが付き物だが、それは明日PUB遊び人で、ということになり、ヴェゴー達はそれぞれ引き上げたのだった。
――次の日の夜。
PUB遊び人は珍しくにぎやかだった。
ヴェゴー、かんちゃん、ナンはもちろん、目を覚ましたザマンやオルカ、グレイもいる。
ランチタイムのバイトの子たちも、なぜか一緒に騒いでいる。
オルカ目当てであった。
「……で、死霊王とカント博士は結局どうなったの?」
カウンターに座り、騒ぐメンバーを眺めながらエールビールをあおっていたヴェゴーに、ナンが声を掛けてきた。
「ああ。カントは塔を出て、あのダムに住み着くことになった。死霊王を直すんだとよ。……今度はちゃんと、感情も含めてな」
「あれで完全破壊に至ってないっていうのがすごいですよね」
かんちゃんが話に混ざってくる。手にしているのはもちろんダダ甘ドリンク、練乳オレである。
「だなぁ。垂直にぶっこんだのが良かったらしい。あの人形の中は空洞になってて、内壁に魔法陣が張り巡らされてたんだとよ。あの大きさも、魔法陣が収まりきらないからあんなになったらしい。なにしろ600以上の魔法陣が組み合わされてたって話だからな」
「良し悪しは別として、正しく天才ね」
「まぁな。とにかく、あの時は衝撃で一部の魔法陣が壊れて動かなくなっただけってことだ」
ヴェゴーの言葉に、かんちゃんが思案顔になる。
「……それでいいんでしょうか」
「ん?」
「直ったらまた、同じことの繰り返しになるんじゃ……」
「そしたらぁ、またクエスト受けてぇ、今度はぜーんぶもらっちゃえばいいんだよー、かんちゃーん!」
「きゃ、ちょっとシーダさん……もう」
飛びついてくるシーダに辟易しながらも、かんちゃんは満更でもない顔だ。
シーダのほうがいくつか年上なのだが、むしろかんちゃんの妹の様にも見える。
「まあ、シーダ嬢の言うとおりだ。俺達は冒険者だからな。クエストになれば報酬目当てに受けて達成する。今回も、ほっとけば再び動くことはないって意味で討伐成功だ。その後誰が直そうが、それは俺達の知ったことじゃない」
「そうそう。クエストの達成っていうのは、依頼人がそれで納得すれば達成したことになるからねぇ」
「依頼人、ですか」
「そう。……あ、旦那、そういえば今回の依頼人って誰だったの?」
「SS級なんて出すのは一人しかいねえだろ」
「ウルチ会長かぁ……」
ヴェゴーはナンに頷いてみせた。そしてジョッキに残ったエールを飲み干し、おかわりを要求する。
「まぁなんにしても今回は助かった。報酬も半分とはいえ、分配した上で貯金も出来たしな」
「そういえば、財源圧迫の根源の人はどこにいるんです?」
「ああ、グレイ卿ならほら」
そう言ってヴェゴーはカウンターの奥を指差す。
「あれ、酔い潰れてるんですか?」
「姐さんに潰された」
「えっ」
「ち、違うのよ? 大体わっち、そんなにお酒強くないし」
「自分は呑んだふりしてじゃんじゃん呑ませてたじゃねえか。あいつも大概強いのに、しまいにゃ軽く泡吹いてたぞ」
「ナンさん……」
「だって! なんかうるさそうだったんだもの!」
「まあ否定はしませんが」
会話が落ち着いたところでヴェゴーは店内を見渡した。
ボックス席では、オルカとザマンがバイトの女の子達に囲まれている。
「オルカは相変わらず人気だなぁ」
「あの子、昔からモテてたものねぇ」
「オルカさん、かっこいーもんねー」
「でも、ザマンくんも結構人気じゃない?」
「人気っていうか……」
「あれはいじられてるんだよ。でもまぁ人気ではあるわな」
「……ザマンさんの癖に」
「ん?」
「あら?」
「……なんですか?」
独り言のつもりだったのだろう、かんちゃんがぽそりと漏らした言葉に、ヴェゴーとナンがニヨニヨしはじめる。
「若いわねぇ」
「若いねえ」
うんうん、などとうなずくベテラン勢に、かんちゃんは頬をぷくっと膨らませた。
「すまんすまん。……でもあの奥の手には驚いたな」
「ね、凄いわよね。しかもあれ、一つ一つは全部レベル1魔法なのよ」
「楽器の具現化はどうしたんだ?ミニチュアサイズではあったが」
「あれは鎧に仕込んでたんです。粘土を触媒にして、そこに特定の配分で属性を混ぜ合わせた魔力を流し込むんです」
「ほへぇ……」
シーダが全くついていけていない様子で口をぽかんと開けている。
「奥の手ってのはあれか、触媒の問題か」
「はい。もっと効率が上がれば触媒が少なくて済むんですけど、今はまだアンサンブル1回分しか持ち歩けないので……」
「姐さん」
「なぁに?」
「この子やっぱりすげぇな」
「すごいわよ。なんたって、あんな使い方誰も思いつかなかったんだからね、今まで」
「必死だっただけですよ。私だって、役に立ちたいんです」
いじらしい事を言うかんちゃんに、ヴェゴーはたまらず彼女の頭をぐりぐりと撫でた。
「おう。すげぇ役に立ってるわ。ありがとうな」
「あっ……へへ」
「あーっ、いいなーっ! ギルド長さぁん、ボクも撫でてよーう!!」
「えー……」
「えーってなにさー!」
シーダが耳と尻尾を立ててきーきーと騒いでいる時、ボックス席から立ち上がったオルカが近づいてきた。その後ろにはザマンもついてきている。
「ヴェゴーさん。僕らそろそろおいとまします」
「お、そうか。今回は助かった。それに、ザマンのことはすまなかった」
「いっいえっ! いいんですそんな、俺のことなんか!!」
「あ、そう? じゃあいいか」
「ォゥッ」
いや、いいとは言ったけどさー、もうちょっとこうさー……などと言いながらザマンがしゃがみこみ、床板の溝をほじくりはじめる。その横に一緒にしゃがみこんだ人物がいた。
かんちゃんである。
「ザマンさん」
「かっ……! かっかかっかっかんちゃんんんんっ!!」
「斥候、ありがとうございました。……かっこ、よかったです、よ?」
「っっっっっっっっ!!!!」
言われるなりザマンの顔が赤くなった。もはや赤黒いレベルである。頭からは湯気が立つ勢いで、彼はしゃがみながら気絶していた。
「あー……」
「ご、ごめんなさい! もう優しく労ったりしませんからっ」
「それはそれで号泣するからやめたげて」
「じゃあ、ヴェゴーさん。またギルド長会議で」
「ああ、またな」
オルカがザマンを担いで店を出ていくと、バイトの子達も次々に帰っていく。
残ったヴェゴー達4人は、簡単に後片付けをしてから解散、ということになった。
ヴェゴーがボックス席を片付けていると、1枚の紙が目についた。
「ん? 忘れ物か?」
ヴェゴーが拾い上げると、そこにはこう書かれていた。
“ダーマ四大ギルド対抗武闘会開催決定 主催/ガーネイ支部”
「へぇ……んん!?」
“参加支部/ガーネイ支部、キョセ支部、ムザスイ支部、コディラ支部”
死霊王討伐編・完
死霊王編、完結です!
でも物語はまだまだ続きますよー!
これからも応援、よろしくお願いします°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°





